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高濱浩子さんが描いた「母のお弁当日記」。料理の説明や感想が添えられている=神戸市兵庫区
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高濱浩子さんが描いた「母のお弁当日記」。料理の説明や感想が添えられている=神戸市兵庫区

 新型コロナウイルス感染症で巣ごもり中に、長年の“宿題”を片付けたという人は少なくないのでは? 画家の高濱浩子さん(51)=神戸市兵庫区=が取り掛かったのは、将来を模索していた時期、母親の心尽くしのお弁当を食べる前に描いた、884枚のスケッチの彩色。「誰がなんと言おうと、私があなたの一番のファンや」。耳によみがえる母の励ましの言葉が、新型コロナで不安な日々を耐える力になった。(小谷千穂)

 神戸元町商店街で育った高濱さんは、嵯峨美術短大(京都市)で日本画を専攻。阪神・淡路大震災を体験したことで「アートは生きることに深く関係している」との思いを強め、ジャンルにとらわれない活動を始めた。個展のほか、大好きな旅の紀行文を雑誌に発表。病院などでアートによる心のケアにも取り組んでいる。

 だが、感染が拡大した3月以降、活動は多くがキャンセルに。フリーランスのため「明日からどうなるんだろう」と生活の不安も膨らんだ。悩むよりも、何か今できることを-と考えた時、棚にしまい込んでいたノート7冊とチラシの裏紙の束が頭をよぎった。

 タイトルは「母のお弁当日記」。2010年9月10日から18年3月31日までの8年間、生活のために事務のアルバイトなどをしていた時期に、母の光永(みつえ)さん(81)が作ってくれた弁当を食べる前に描いた記録だ。「お返しのつもり」で、後で色を付けようと思いながら、そのままになっていた。

 豚の香草焼きやキャベツのビネガー漬け、グレープフルーツの皮を器にしたシーフードサラダ-。サインペンのスケッチに色鉛筆で色を重ねていると、あの頃の気持ちがよみがえった。

 旅館の娘で料理店を営んでいた光永さんの弁当は、特別な食材を使っていなくても、手が掛かっていて、おいしかった。アルバイト暮らしに心が疲れると、スケッチが雑になる一方で、弁当はさらに一手間加えたものになっていた。

 「母は私の気持ちに気付いていたんでしょうね」

 そんな母の支えを力に、高濱さんは詩人タゴールの思想を学ぶためインドへ留学し、スペインでサグラダ・ファミリア(聖家族教会)の専属彫刻家を務める外尾悦郎さんに弟子入りするなどしながら、自分の世界を切り開いてきた。

 「母の存在や弁当のように、当たり前だと思っていたものにも、たくさんの『ありがとう』が詰まっていたんですよね」と高濱さん。母に見せると「上手に描けていいやん」と喜んでくれた。「他人と比べて焦らずに、自分と向き合う時間があっていい」と思えるようになった巣ごもりの日々。今後、「母のお弁当日記」展の開催を目指すという。

     ◇

 高濱さんの作品「私書箱1284」シリーズが、神戸市中央区のギャラリー島田(TEL078・262・8058)のサイトで公開、販売されている。

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