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大きくなってきた女性のおなかを優しくなでる永原郁子さん=神戸市北区ひよどり台2、マナ助産院
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大きくなってきた女性のおなかを優しくなでる永原郁子さん=神戸市北区ひよどり台2、マナ助産院
建設が進む「マタニティーホーム(仮称)」
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建設が進む「マタニティーホーム(仮称)」
女性が心身を休めたマナ助産院の一室
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女性が心身を休めたマナ助産院の一室

 望まない妊娠に苦しみ、誰にも出産の相談をできず追い詰められる女性たちがいる。家庭の事情や貧困などによる母親の孤立は、乳幼児の遺棄や放置死の背景になり得ることも指摘されている。神戸市北区のマナ助産院に併設されている「小さないのちのドア」は、そうした女性のための相談窓口だ。頼る人や住む家のない妊婦を支援し、新しい命を守る現場を取材した。(広畑千春)

 「おいしい!」。8月のある日のマナ助産院。入院する20代の女性は、永原郁子院長らと手作りのちらしずしを口に運ぶと、安心したように笑顔をみせた。

 女性は妊娠8カ月。両親は生後間もなく離婚し、祖母に育てられた。家計は苦しく、大学進学は諦めざるを得なかった。昼は派遣、夜はスナックなどで働きながら、友人の家やネットカフェを転々とした。

 今年の冬、仕事を終えて一人で帰宅中の深夜、突然、見知らぬ男に襲われた。

 「不注意と言われたり、仕事をばかにされたりするかも-と思うと警察に通報できなかった。これ以上嫌な思いをするくらいなら、忘れてしまおうと思った」

 体の異変に気付いたのは7月。計算すると、人工妊娠中絶を受けられる時期を過ぎていた。コロナ禍の営業自粛で夜の仕事を失い、借金を抱えていた。手元の現金は1万円だけ。途方に暮れていた時、インターネットで知った「小さないのちのドア」に連絡した。

■高いハードル

 電話を受けた永原さんは「すぐいらっしゃい」と告げた。助産院の一室に通された女性はよほど疲れていたのか、それから3、4日はほとんど眠ったままだった。

 その間、永原さんらは提携する病院やソーシャルワーカーに連絡。診察には、「いのちのドア」の施設長で保健師の西尾和子さんが付き添った。母子手帳や出産前後の公的助成に加え、産後の生活も見据えて生活保護を申請。さらに、顧問弁護士と連携し借金の返済猶予手続きも進めた。

 「借金を抱え生活に行き詰まる妊婦さんにとっては役所でさえハードルが高いのに、弁護士への相談なんて最初から諦めてしまう。誰かが橋渡しできれば」と西尾さんは話す。

 女性は「もう少し(妊娠に)早く気付けば中絶できたのに」「生んでも育てられるわけがない」と周りから責められ、「赤ちゃんをかわいいと感じるのも駄目なことだと思うようになっていた」。

 胎児のエコー画像や心音に触れても「自分の体じゃないみたい」で、会員制交流サイト(SNS)で乳幼児遺棄などの事件を見ると、「自分と似ている」と心が騒いだ。

 それが、少しずつ先行きの不安から解放されるにつれ、「赤ちゃんのことを喜んでもいいのかな」と思えるようになった。SNSでも、育児の楽しげな投稿や、子どものための貯金や名付けなどの話題が目に入るようになってきたという。

■自分を愛して

 今は、生まれる子どもを自分で育てるか、特別養子縁組制度を利用するか、両面で準備を進めている。

 「彼女には『急いで決めなくていいよ』と伝えています。まずは、おなかの中で赤ちゃんを育てている自分を愛してほしいから」と永原さん。「世の中には助けを求める力を失い、孤立した妊婦さんが大勢いる。だからこそ、私たちはいつでも手を伸ばしておきたい」と力を込める。

 助産院の隣では現在、「マタニティーホーム(仮称)」の建設が進む。そこでは、女性のような妊婦の居場所を作り、スタッフからお菓子作りやパソコンなどを習いながら出産を迎え、産後を過ごせる環境を目指している。

 クラウドファンディングで資金を募り、年末の完成を目指すが、引き続き建築資材や住宅設備の支援が必要な状況だ。「ベニヤ板1枚でも支援を」と協力を呼び掛ける。また9月12日、ボランティア希望者などを対象に「いのちのセミナー」をオンラインで開催(2千円、8月31日締め切り)。いずれも「小さないのちのドア」のホームページから申し込める。

 小さないのちのドアTEL078・743・2403(24時間、無休)

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