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「がんになった自分の経験を社会に還元したい」と話す緩和ケア医の関本剛さん=神戸市灘区八幡町3、関本クリニック
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「がんになった自分の経験を社会に還元したい」と話す緩和ケア医の関本剛さん=神戸市灘区八幡町3、関本クリニック

 残された命と向き合いながら、緩和ケア医としての仕事を全うしようと努める関本剛さん。インタビューでは、がん患者となり「『生きる勇気』の大切さに気付いた」といい、本に込めた思いを丁寧に語ってくれた。(聞き手・安福直剛)

 -なぜ本を書こうと思ったのですか。手応えは。

 「どんな人の人生にも本が1冊書けるようなドラマがある」という言葉を数年前に聞き、「確かにその通りだ」と思ったことがある。自分がこんなに早く“主人公”になるとは考えていなかったが、何かを残して社会に貢献できればと思っていたところ、知人の医師から編集者を紹介してもらった。徹夜で作業することもあったが、周囲の協力もあり出版できた。早速読んでくれた患者さんからの応援もあり、書いてよかったと感じている。

 -現在の体調や治療状況は。

 ステージ4の肺がんと脳への多発転移で余命2年と言われたのが昨年秋。それ以降、脳への放射線治療と並行して抗がん化学療法を受けてきた。最近になって脳転移巣が制御できなくなってきたため、抗がん剤を変更した。幸い通常の生活を送れているが、万が一に備えて訪問診療の際は運転を控え、スタッフに運転してもらうなど、周囲のサポートを受けながら診療を続けている。

 -患者になって気付いたことは。

 例えば、検査結果ひとつとっても、待っている間は本当につらい。悪い結果が出るのではないかと、まるでロシアンルーレットのような感覚だ。患者さんの絶望と苦悩の一端を知った。研修医の頃から、自分や家族のことのように患者さんと接してきたつもりだったが、本当にそこまで自分は分かっていたのか。最後の最後は人ごととして考えていたのではないか。今になってそう思う。

 -患者との関係性も変わった。

 あくまで医師という立場で患者さんと並走していたのが、「私もがんです。お互い楽に長生きしましょう」の一言でスッと横に付けるようになった。これまで手を抜いていたわけでは決してないが、患者さんに投げ掛ける言葉や表情に魂が宿るようになった。泣かれたり握手を求められたりすることもあり、心の垣根を取り払う場面も増えた。自分に残された時間は少ないが、図らずも緩和ケア医として成長できたのかもしれない。

 -患者に伝えてきた言葉が、自分に向けられることになりました。

 これまで医師として、患者さんやご家族にはよく「最善に期待し、最悪に備えましょう」と伝えてきた。病気が悪化しないことを期待しながらも、悪くなってから後悔しないように備えておくという意味だが、最近思うのは「最善」と「最悪」のバランスだ。毎日「最悪」に備えてばかりいては、つらくてとてもやっていけない。医師や看護師から少しポジティブなことを聞くだけでうれしくなる。日々楽しいことを考えながら、たまに「最悪」について考えるくらいがいい。

 -残された時間をどのように。

 社会的活動や家族孝行など、人間は死ぬまで成長できる。「もう少し長生きできるかもしれない」と最善には期待するが、「絶対に治る」などと過度に期待しすぎると悪あがきしてしまい、時間や体力を浪費するのがもったいない。現実的な目標を立てて1歩ずつ進んでいきたい。

 -具体的に考えていることはありますか。

 夫を失った直後の妻に、大勢の前で葬儀のあいさつをさせるのは忍びないので、自分であいさつを録画しておこうと思う。妻や子どもたち(小学4年生の娘、幼稚園児の息子)に向けたメッセージ動画も今のうちに撮る予定だ。貯金を治療費に使い切ってしまったり、自分が死んだ後に生活が苦しくなったりしないよう、仕事も可能な限り続けたい。

 余命宣告を受けた当初は「できるだけ家族との時間を」と考えていたが、少し頑張って仕事をしていたら、逆に元気をもらうことがたくさんあった。最近はよく頭痛がするが、患者さんと話していると紛れる。

 -冷静に対処されているように見えます。

 いや、家族と共に嘆き、苦しんでいる。今は頭痛が日常的にあり「薬が効いていないんじゃないか」と夫婦で涙を流すこともある。ただ、緩和ケア医として「楽に長生きしましょうね」と声を掛けてきた自分が、最後にぶざまな姿を見せることは避けたい。

 -人間にとって「死」と向き合うのは苦しい。

 どんな人にも落ち込む権利がある。嘆き悲しみ、葛藤するのは当然のことで、自分もまさに経験している。苦しみや悲しみを無理に隠して生きなくてもいいし、無理に隠すと心身の負担にもなる。人間は本来、精神を回復させる強さを持っている。そのためにもとことん悲しむのは、必要なことなのではないか。

 患者の立場になって気付いたのは、「生きる勇気」の大切さだ。絶望的になり、全てを投げ出したくなることがある。治療にお金がかかるなら、家族のために早く死んだ方がましだと思うこともある。それでも、楽しいことを考えて勇気を充電しながら生きていく。つらいことを考えすぎない「鈍感力」の重要性を痛感する日々だ。

 -緩和ケア医としての人生を振り返って。

 高校生のときに母が立ち上げたホスピスを見学して以降、緩和ケア医になりたいと思い、今まで仕事を続けてこられたのは幸せだ。治療や検査などの“武器”を持たずに患者さんと向き合う、人間力が問われる仕事だが、そこが醍醐味でもある。患者さんや家族の数だけ「解」があり、教科書に書いてあるような理屈やスキルだけでは対応できない「応用問題」を日々解いている感覚だが、自分としては、仕事で体をすり減らしたという思いはない。

 -神戸は緩和ケアの先進地だそうですね。

 治療から看取りまであらゆる分野の専門施設が適度な距離感で集まっている。年間50人ほどを看取るクリニックが神戸市内には10カ所ほどあり、横のつながりも強い。全国的にも珍しく、各地から視察者も多い。

 緩和ケアは「心身ともに楽に長生きしてもらえるようお手伝いする」というのが本来なので、患者さんやご家族には前向きに捉えてもらいたい。「まだ早い」などと考えずに、気軽にアクセスしてもらえればと思う。

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