終末期患者寄り添い30年 病院チャプレンの女性が本出版

2021/01/13 05:30

チャプレンとして30年、終末期患者に寄り添ってきた藤井理恵さん=大阪市東淀川区柴島1、淀川キリスト教病院

 終末期患者に30年間寄り添ってきた病院チャプレン(聖職者)の藤井理恵さん(61)=兵庫県芦屋市=が新著「たましいの安らぎ」(いのちのことば社)を出版した。350人を超える患者を見送ってきた経験を基に、藤井さんは「死は誰にでも訪れる。人生の苦しみや悲しみ、いのちを受け止める支えの一つになればいい」と話す。(中島摩子) 関連ニュース 「きちんと別れできず」遺族、施設の対応に悔しさ 老人ホーム孤独死 コーヒー豆の麻袋、バッグや小物に再生 カルティエで長年勤務の女性ら開店 楽しく学ぶ「数のふしぎ」 こうみん未来塾、オンラインで7月開催

 藤井さんは神戸市須磨区出身で、関西学院大大学院神学研究科を修了。1991年から淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区)でチャプレンを務めている。
 人生の最期を過ごす患者は、体の痛みや、経済面や家族関係などの「社会的な痛み」に加え、自分の存在を根底から揺るされるような「たましいの痛み(スピリチュアルペイン)」と向き合う。藤井さんは何度も「私の人生、いったいなんだったんでしょう」と問い掛けられた。
 そんな患者の傍らにいて、語られる言葉に耳を傾けてきた。苦しみや孤独、罪責感を吐露する人、人生を振り返る人…。必要があれば、聖書の言葉を伝え、祈りをささげてきた。
 新著では、12人の患者について詳しく記した。
 当初「病気の自分には生きる意味がない」と考えていた60代の多発性骨髄腫の男性。孤独に苦しみながら、死を前にしてふるさとに戻り、人生を終えた40代の肺がんの女性。子宮肉腫を患い、子どもあてにビデオメッセージを収録した3人姉妹の母親…。
 死を前に価値観が変わったり、神や自然などとの関係の中に安らぎを得たりと、苦しい人生を投げ出さずに受け止めて答えを見いだしていく姿を紹介する。「どの方も、一度きりの人生を生き抜こうとする姿を通して、尊いメッセージを残してくださった」と藤井さんは話す。
 いつか迎える死について考えたい人、今まさに大切な人をケアしている人、チャプレンを志す人たちを思い執筆した。昨年、還暦を迎えた藤井さんは「病む人の傍らで、自分を丁寧に生きていく」と誓い、今日も病室を訪ねている。
 192ページ。1540円。いのちのことば社TEL03・5341・6922

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