ニーズ高まるフードデリバリー 出前の配達員、競争激烈
2021/05/25 05:30
まちなかを走るフードデリバリーの配達員。獲得競争は激しい=神戸市中央区加納町4
背中の四角いバッグが、あっという間に小さくなっていく-。自転車やバイクの配達員が行き交う、フードデリバリー「戦国時代」がやってきた。新型コロナウイルス禍の外出自粛、飲食店の時短営業、休業を背景にニーズが高まる中、宅配サービスが、ずっと気になっていた。配達員って、どんな人が、どんな働き方をしているのだろう。神戸・三宮の繁華街でウオッチしてみた。(井上太郎)
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■勤務は長い? 短い?
配達員のたまり場となっているJR三ノ宮駅北の「マクドナルド三宮北口店」前をのぞく。金曜日の朝8時。職場へ急ぐサラリーマンを横目に、ヘルメット姿の外国人男性がのんびりと座り込んでいた。
「ここなら『すき家』も『ケンタッキー』も近いから」。飲食店に配達の注文が入ると、衛星利用測位システム(GPS)の情報を基に、近くにいる配達員に仕事が入る。いろんな店舗に「網をかける」のに、ちょうどいい位置だという。
男性はウズベキスタン出身、23歳の留学生。コンビニでもアルバイトをしているが、ビザで就労時間が「1週間に28時間まで」と定められているため、昨夏から配達員を始めたという。
「注文が入り、商品を客に届けるまでの間だけが就労時間にカウントされます。待機時間は含まれないから」と男性。報酬は距離や天候によるが、男性が登録する「ウーバーイーツ」は1件で平均300~450円、「2~3時間で15件回れば5千円ぐらい稼げる」ので、時給に換算すれば割がいい、とも言える。午前10時ごろになると、似たような格好の留学生仲間が続々と“出勤”してきた。
■アスリートも弱音
配達員にとって週末はかき入れ時。土曜の正午すぎ、歩道脇で自転車に乗ったまま一息つく、体格のいい日本人男性(41)=神戸市北区=に声をかけてみた。
本業は、個別に指導するパーソナルトレーナー。コロナ禍で昨春から収入が激減し、今は配達員の稼ぎの方が高いという。
男性は複数の宅配サービスに登録。最近は同じように掛け持ちをする配達員が多い。ロゴマークをテープで覆い隠した妙なバッグをよく見かけるのは、そんな事情からのようだ。
試してみた結果、男性はピンク色のロゴがトレードマークの「フードパンダ」が好条件と判断した。昼夜のピークに合わせて1日9時間程度働き、週末なら1日3万円ほど稼ぐという。
「実は僕、元競輪選手なんです」。鍛え抜かれた太ももに納得。天職ですねと言いかけたが、「住吉とか芦屋までも行くから、1日に150キロ走るなんてざら。マジで気絶しそうっす」
スマホにチキン南蛮専門店からの依頼が入る。男性は深呼吸し、フラワーロードを颯爽(さっそう)と駆け上がっていった。
■地蔵、地蔵、地蔵
昼食、夕食のピークをすぎ、夜の9時半。マクドナルド前にはまだ、10人前後の配達員が歩道の隅やベンチに座り込み、注文を待ちわびていた。
「配達員多いから、いつも競争」。ベトナム出身の留学生(24)が言う。
仕事の割り振りは店舗からの距離に加え、これまでの実績も考慮される。実績とは、配達先の消費者が入力した「評価」だ。以前、バッグの中でドリンクがこぼれ、客に思いっきり叱られたことがあった。「急いでしまうとそうなる。気をつける」
忙しく走り回る配達員をよそに、じっと待機し続ける配達員を業界では「地蔵」と呼ぶらしい。この日、あたりを見回すと地蔵、地蔵、地蔵…。「コロナでコンビニのアルバイトのシフト減った。こっちでカバーしたい」。静まっていく繁華街の片隅で、スマホの画面を見つめ続けていた。