「わたしは思い出す」震災、育児…思いつづり 「東日本」被災者、育児の10年日記たどる作品展

2021/12/28 05:30

「わたしは思い出す、」から始まる短文が記された木柱=神戸市中央区小野浜町

 東日本大震災の被災者“かおりさん”が被災直後から10年間にわたって記した育児日記をたどる作品展が、神戸市中央区小野浜町のデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で開かれている。「わたしは思い出す、字を書きはじめたことを。少し寂しかった。」など、日記の内容の一部130編が木柱に書かれている。主催者は「『わたしは』を来館者が自分と重ね、阪神・淡路大震災などの震災に思いを寄せてほしい」とする。(堀内達成) 関連ニュース 原発事故で奪われた日常と生まれた分断 福島離れ二重生活10年、母子の記録 宮城で失った恋人…彼の両親との再会楽しみに 東日本大震災 住民も知らなかった 西宮浜に広がるアート空間


 仙台市に暮らすかおりさん(40)=仮名=は、第1子の長女を出産した2010年6月11日から毎日、克明な日記を付け始めた。ベビーカーを買ったこと、同じ布団で寝始めたこと…。9カ月後、家が大きく揺れた。
 「津波が来る」と聞き、内陸に車で逃げた。直前に寄った沿岸のおもちゃ店のレシートに目をやった。この日の午後2時7分の刻印が入っている。
 「わたしは思い出す、14時7分を。」
 5年目の3月11日には「明日もフツーの日が来ますように」と記し、10年目の同日には新聞朝刊がすごく分厚くて、遺族の記事を読んでボロボロ泣いたことなどを書き連ねている。
 作品展を主催するNPO法人「記録と表現とメディアのための組織(remo)」とかおりさんが出会ったのは、震災から丸10年を前にした20年10月。同法人が、津波被害に遭った複数の小学校に通う10歳の児童の保護者に、10年間を振り返るワークショップの参加を呼び掛けたところ、かおりさんが参加した。
 「復興の道のりは日常に溶け込んでいる。その日々をかき集め、震災後の輪郭を浮かび上がらせたい」と考えていた同法人の松本篤さん(40)が日記のことを聞き、作品展を企画した。
 会場には幅3センチ、奥行き12センチ、高さ270センチの木柱70本がハの字形に並ぶ。自立した女性などをイメージした木柱には「わたしは思い出す、」から始まる短文のみが書かれている。このほか会場内には、松本さんがかおりさんから聞き取りながら、日記を再編した20万字におよぶ文章も置かれている。
 松本さんは「かおりさんの等身大の晴れた心や曇った心を残し伝えることが、迷いや葛藤を抱える被災者へのヒントになると思う」と期待している。
 1月17日まで。中学生以上500円。月曜日休館。午前11時~午後7時。KIITOTEL078・325・2235

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