電子マネー高額購入で「大丈夫?」 詐欺被害防いだコンビニオーナーが今も後悔すること
2022/04/27 05:30
感謝状を受けた岡本徳子さん(右から2人目)=兵庫署
だまされて電子マネーを買おうとした高齢男性に声を掛け、詐欺被害を未然に防いだとして、ローソン塚本通店(神戸市兵庫区塚本通7)のオーナー岡本徳子さん(54)に兵庫県警兵庫署から感謝状が贈られた。「被害に気づいてもらえて良かった」と振り返る岡本さん。一方で、今も後悔していることがあるという。(大田将之、橘高 声、伊藤颯真)
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■高額の8万円
3月31日夕方、高齢の男性が岡本さんの店に来た。60~70代ぐらい。見覚えのない顔だ。男性は自動ドアを入ってすぐATMで現金を引き出し、電子マネー売り場へ。その様子を、岡本さんはレジから眺めた。
男性が電子マネーカードをレジに持ってきた。計8万円分だった。経験上、この店で一度に購入される平均は数千円程度。「高額すぎる。だまされているのかも」とよぎったが、男性は入店時から終始、落ち着いた様子だった。「買い慣れているのだろう」と思い、結局、声を掛けなかった。
■片言の日本語
しばらくして再び男性が現れた。さっきと同じように売り場へと向かう。「やっぱりおかしい」。今度は話し掛けた。「警察から言われているのですが、高額な電子マネーを先ほども買われていましたよね。大丈夫ですか?」
「詐欺」の2文字を使わず、「だまされているのでは」という指摘も避けた。
すると、男性は一気に説明を始めた。「パソコンを止められている」「マイクロソフトの職員だという男に、片言の日本語で電子マネーを買うよう言われた」「パソコンが止まると取引ができなくて困る」
「バババっと話されて。私の世代でもパソコンは分からないことが多い。不安だったんだと思います」
岡本さんは「私から警察に相談してもいいですか?」と確認した上で、110番した。男性は「パソコンが」「お金を払わないとあかんのや」と繰り返しながら、警察官に付き添われて自宅に帰って行った。
■声掛けに怒る人も
兵庫署によると、男性は75歳。パソコン画面に突然「ウイルスに感染しています」と表示され、そこに書かれていた番号に電話したという。外国人とみられる男から「復旧させるために電子マネーが必要」と伝えられ、コンビニを訪れた。
岡本さんの店では以前からチェックシートを用意するなど、詐欺被害防止に努めてきた。声を掛けて警察につないだり、家族への相談を促したりし、被害を防いだことも何度かあった。
ただ、客の買い物に口出しをするのは難しい。用途などプライベートな内容も聞かざるを得ず、声を掛けると「そんなん分かってるわ」と怒る人もいた。
「もし私が逆の立場なら不審に思いますし、当然なんですが…」
やっぱり勇気がいる。でも、目の前のお年寄りが「自分の親だったら」と考えると、放ってはおけない。
■こみ上げる後悔
男性は総額23万円分を要求された。岡本さんがレジを通した8万円分は、カードの番号を教えてだまし取られた後で、さらにそれ以前にも何者かに3万円を送金したという。
初めに違和感を抱いたときに、なぜ声を掛けなかったのか。岡本さんは、さらなる被害を防ぐことができたことを「率直に良かった」と振り返る一方で、後悔がこみ上げる。
今回の経験を教訓に「お客さんに声を掛けやすく、安心して受け入れてもらえる表現を考えたい」と岡本さん。「ほかにも多くの被害が出ているはず。これからは直感を信じて声を掛けたい」と語った。