赤字続きで大量生産から転換、地元産材料と手作りで一躍人気店に 加東のパン店「アイガー」

2022/05/30 05:30

昨春に移転したアイガー加東店でもち麦パンを持つ西嶋直也さん=加東市上中1

■もち麦パンで地域に貢献 西嶋直也さん(53) 関連ニュース パンなの?アイスなの?…凍らせたまま食べる「フローズンメロンパン」が登場 「新食感」を人気商品と食べ比べ 「先生な、パン屋さんになりたいねん」元教諭が念願の店舗オープン 知る人ぞ知る人気パン 「やっと自分らしいお菓子作れるように」ケーキの投稿に絶賛の嵐「シンプルなだけに美しさ際立つ」「原点にして最強」

 手には焼きたての大きなバゲット。麦の香りが、ふわりと立ち上る。加東市産もち麦を使う逸品は、パン店「アイガー」加東店(兵庫県加東市上中1)の限定販売だ。「ここにしかない、ここだけで買えるパンを売りたい。ネット通販や百貨店出品のお誘いもあるけど、そこはぐっと我慢です」。朗らかな笑顔に、直営店スタイルへの強いこだわりをのぞかせる。
 約75年前に祖父が創業した西嶋パン。高校卒業後に入社し、その半年後に亡くなった父の後を母と継いだ。弱冠19歳、手探りの日々。当時は卸売りや移動販売をしており、工場でひたすらパンを焼いた。1997年に直営店「アイガー」を旧社町で開業、その後、小野市にも進出したが長く赤字続きだった。「朝から晩まで働いて、休みもなくて。それでも大手との低価格競争は激しくなるばかりで、ずっと厳しかった」
 生き残るため、2008年、代々引き継いできた卸売りをやめる決断を下す。加東市大門の工場を閉鎖し、直営店に専念した。「大量生産方式をとらず、地元産材料で手作りにこだわる。大手との差別化に必死でした」。狙いは当たった。徐々に知名度が高まり、今では2店舗とも市内外から客が途絶えない人気ぶり。地元出身の若手職人も増えた。
 経営理念に掲げる「地域貢献」への思いも人一倍だ。一昨年、加東市産もち麦を原料に使うパン開発を持ち掛けられた。生まれ育った地区でも栽培農家が増え、「高齢化が進む農家のやりがいにつながる商品を作りたい」と奮起した。
 もち麦は小麦より膨らみにくく、配合なども難しい。パン職人となった長男・直栄(なおひで)さん(25)が開発を担当し、何度も試作。2年をかけ、じっくり冷蔵発酵させるレシピを参考に商品が仕上がった。「潤いがある。これなら地元の人たちに毎日食べてもらえる。おいしく、リーズナブルに、さらに地域の健康に役立てば」と期待をかける。
 好きな言葉は「苦しい時ほど上り坂」。苦労の時期ほど成長できる意味だという。歩んで固めた自信を胸に、きょうも店に立つ。(岩崎昂志)
【記者の一言】「アイガー」の由来はスイスの名峰。山男の西嶋さんは新婚旅行で訪れ感銘を受けたと話す。現地の村ではパンが暮らしに結び付き、深く愛されていたとも。明るくくじけない西嶋さんの原点は、ここにあるのだろうか。当時の山の写真が店の玄関に飾られている。

神戸新聞NEXTへ
神戸新聞NEXTへ