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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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トアロード文学散歩 ファッション都市の原点 2020/10/07

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「マキシン」など服飾雑貨店やおしゃれなカフェが並ぶトアロード=神戸市中央区北長狭通2

 高須相子は、着物の裾(すそ)を翻(ひるがえ)すような颯爽(さっそう)とした歩き方で、神戸の街のトーアロードを山手(やまのて)から海岸通りに向って歩いていた。(中略)

 トーアロードの両側には、神戸の最も高級な洋裁店、貴金属、洋品店などが並んでいる。高級な店ほど表にウィンドウを構えず、扉(ドア)を閉ざしているが、中は豪華な絨毯(じゅうたん)を敷き詰め、一種のサロンになっている。(山崎豊子「華麗なる一族」より)

 金融界の暗部を描いた「華麗なる一族」の舞台は、神戸に本店を置く都市銀行オーナーの万俵(まんぴょう)家。美しく才たけた高須相子は、家庭教師として屋敷に入るが、次第に女執事の役を演じるようになる。

 次男の見合いの下相談の前に、立ち寄ったのがトアロード。悠然と扉を開け、イタリアの最高級シルクを注文すると、三宮センター街の「ドンク」でコーヒーを飲みながら、上流階級を相手に策を巡らす。

    ◆   ◆

 今もブティックが立ち並ぶ一角を占めるのが、創業80年を迎えた老舗帽子メーカー「マキシン」。社長の渡邊百合さんは「常連客の中には、きれいで裕福な女性が少なくない」と笑う。

 トアロードを特別な空間としたのは、ミナトを窓口にした外国の文化だ。

 阪神間モダニズムが花開いた明治末から昭和初期、富裕層に洋風の生活が浸透していく。「朝食にはハムやチーズを食べ、食器は純銀製…。そんなライフスタイルに合う舶来品が、トアロードにはあった」

 最先端のファッションも海を越えてやって来た。

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創業80年のマキシン3代目社長の渡邊百合さん=神戸市中央区北長狭通2

 百合さんの義父で創業者の利武さんは、神戸港に足しげく通い、外国人船客らの洋装を学んだ。職人にも「街に出て彼らの姿を見学し、帽子づくりに生かすべし」と教えていたという。

 百合さんは今年発行した80周年誌に、トアロードの主な店の変遷が分かる地図を載せた。それを見ると、戦前から1960年ごろまでを通じて、「洋服店」や「洋装店」がたくさんあることが分かる。

 「テレビもファッション雑誌もなかった時代から、トアロードには、モデルのようにおしゃれな人があふれていた」

 一点一点手作りしているマキシンの帽子も、皇室のご愛用となり、一流企業や五輪、万博など大イベントの制帽を製作。「メード・イン・コウベ」の品質を、世界に知らしめている。

 「山崎豊子さんにも愛用していただいていた」と百合さん。作家もマキシンの帽子をかぶり、トアロードを闊歩(かっぽ)しただろうか。(伊田雄馬)