People People

M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

Kobe
People People People

薫る街 日本最古のコーヒー店 2020/11/05

 コーヒーと喫茶店は、港町によく似合う。それは、開港とともに開けた神戸の元町・三宮を語るには欠かせないモダン文化の一つ。コーヒーの一大生産地・ブラジルへの移民の窓口だったことも、見逃せない。神戸でフリーペーパー「甘苦(あまにが)一滴」を発行する田中慶一さん(45)の案内で、“薫る街”へと旅に出た。(小谷千穂)

記事

「日本最古」の看板を掲げる放香堂加琲店=神戸市中央区元町通3

 神戸元町商店街は、旧西国街道沿いの約1・2キロ。名前の通り、開港間もない1874(明治7)年に初めてできた「元」の町だ。

 その一角に「日本最古の加琲(コーヒー)店」と看板を掲げるのが、同年開店の日本茶専門店「放香堂(ほうこうどう)」(元町通3)。「神戸とコーヒーの歴史を語る上で、最も象徴的な場所。ここから全てが始まった」と田中さんは言う。

 京都から神戸に出店した放香堂は、茶葉を輸出する際、「茶つぼを空で持ち帰るのはもったいない」と、コーヒー豆を詰めたといわれている。

記事

明治の復刻コーヒーをひく専用石臼=神戸市中央区元町通3

 82年発行の神戸の商店案内「豪商神兵 湊(みなと)の魁(さきがけ)」で放香堂の図版を見ると、「宇治製銘茶」と並んで、「印度産加琲」と書かれた看板が掲げられている。

 その4年前には、こんな新聞広告も。

 「焦製飲料コフイー 弊店にて御飲用或ハ粉にて御求共に御自由」

 田中さんによると「店頭でコーヒーを飲ませたことを示す現存最古の資料」だそうだ。

 日中戦争が勃発し、戦時統制が始まると、コーヒーの輸入も制限。放香堂でもコーヒーの販売は途絶えることになる。戦後も、日本茶専門で営業していたが、復活を望む声に押されて、開港150年を目前にした2015年10月、「放香堂加琲」店をオープンした。

記事

放香堂に置かれている古い茶つぼ=神戸市中央区元町通3

 看板メニューは、明治のコーヒーの復刻版。豆はもちろんインド産で、「臼を使ってひいていた」という言い伝えから、専用の石臼を特注した。電動ミルとは異なり、豆本来の香りと、油分が少し残った味わいが楽しめるという。「麟太郎」のネーミングは、神戸港の発展を見抜いた勝海舟の通称からだ。

記事

明治のコーヒーを再現した「麟太郎」=神戸市中央区元町通3

 店では今日もゴリゴリとコーヒーをひく石臼の音が響く。「何してんの」と、けげんそうな商店街の買い物客に、店長の武田昭雄さん(32)が丁寧に説明する。「歴史をしっかり伝えていく使命を感じています」

 始まりの一杯を頼めば、しばし、時の旅人。

記事

コーヒーに関する冊子を数多く手がける神戸市の「甘苦社」ライター田中慶一さん(本人提供)

【田中慶一(たなか・けいいち)】大学時代からの喫茶店巡りを続け、訪れた店は全国千店以上。ライターとして活躍し、「神戸とコーヒー」(神戸新聞総合出版センター)の制作を担当した。東灘区在住。