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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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旧スイス領事館の建物 神戸・北野に移築、今も健在 2020/12/16

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妻のマリアナさんとくつろぐデビス・ハニさん(左)=神戸市中央区北野町1

 かつて、旧居留地にあったスイス領事館の建物が、神戸市中央区の北野地区で健在なのをご存じだろうか。

 浜手から急坂を上り、異人館街へ。イタリア館の手前の小道の奥にひっそりたたずむ白い洋館がそれだ。旧居留地から事業を広げたシリア出身の貿易商・デビス家の邸宅として118年前に移築され、今も大切に使われている。

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妻のマリアナさんとくつろぐデビス・ハニさん(左)=神戸市中央区北野町1

 現当主の弟ハニさん(46)も、この家で生まれ育った。「一族の思いが詰まった場所。神戸に生きた証しとして永続させたい」と話す。

 ハニさんによると、建物はオランダ人の設計で木造2階建て。東遊園地近くにあったと伝え聞くが、移築の経緯は定かでないという。

 デビス家は生地の輸出入を家業とし、ハニさんの大叔父エザット氏が1917(大正6)年に来神。買い付けた生地にアフリカの民族模様をプリントし英国に輸出、世界に広がる一族のネットワークで成功を収めた。

 一時は、旧居留地の土地の約3分の1を所有したこともあり、88年にはエザット氏の弟アブドゥル・ハディ氏が高額納税者全国1位で“時の人”になったという。事業拠点は大阪に移ったが、旧居留地の駐車場「デビスパーキング」にその名が残る。

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階段の親柱に刻まれる菊の紋=神戸市中央区北野町1

 自宅では、ハニさんの幼い頃から毎週のようにパーティーがあり、国内外の経営者に間近で接した。夏休みには、旧居留地に一時所有していたチャータードビル内で生地のサンプル作りをし、駐車場の管理や経理を手伝った。家族の会話は「ビジネスが約8割だった」と笑う。

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旧居留地のスイス領事館を移築したデビス家の洋館=神戸市中央区北野町1

 自宅のサロンには、領事館時代からのテーブルがあり、客間もシリア風の椅子や調度品がきらびやか。階段の親柱には菊の紋章が彫ってあり、「スイス(領事館)の階段になぜ菊?」と、謎として語り継がれてきたという。

 お気に入りはバーベキューを楽しんだパティオ(中庭)だ。「家族の誕生日に木の上などにプレゼントを隠して、ヒントを出しながら探すのが楽しかった」。近くのうろこの家やイタリア館には友達が住んでいて、「かくれんぼをするのに最適だった」。

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領事館時代から使われているというサロンのテーブル=神戸市中央区北野町1

 阪神・淡路大震災では煙突や屋根瓦の一部が損傷。過去には文化財指定の話もあったが、「煙突を取り除き、増改築もしていたので立ち消えになった」と苦笑する。

 現在は母アイマンさん(80)が主に暮らす。保存状態と立地の良さから、結婚式場などへの活用の打診もあったが、一家は断ってきた。ハニさんは言う。

 「私たちの礎はここにある。いずれ災害に強くするために大規模改修が必要になるが、なんとしても守りたい」(竹本拓也)