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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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テンポイント、ライスシャワー、サイレンススズカ…名馬のたてがみ、供養塔に 神戸・馬頭観音 2021/02/24

記事

日本最大といわれる妙光院の馬頭観音=神戸市中央区神仙寺通1

 旧葺合区の北東、天台宗妙光院(神戸市中央区神仙寺通1)には日本最大といわれる「馬頭観音」がある。

 高さは実に6メートル。跳ねる馬の背に乗り、頭上に馬の頭部を頂く。火炎の後背に四面八臂(はっぴ)は憤怒の形相だ。

 慈悲の心を表す観音菩薩(ぼさつ)が、なぜこれほど怖い顔をしているのか。

 「畜生道に落ちて苦しむ人に救いを施すためです。人は優しさだけでは悟りを得られない。厳しさも必要ということですかね」と、尾市円秀住職(74)が柔和な顔で説明する。手に持つ剣やおのは悪を打ち払い、煩悩を断ち切るためという。

 妙光院は大宝3(703)年に京都で創建、1908(明治41)年に摩耶山への登山道にある現在地へ移転した。京都から木材などを運んだ馬の労をねぎらい、33(昭和8)年に馬頭観音を建立。「当時の住職は、動物への愛情が深かったようです」

 当初は神戸の街を見守るように、高台から南向きに建っていたが、67年の豪雨で倒壊し、今は境内に安置されている。

 「移動には馬が不可欠でしたから、馬頭観音さんは道祖神のようにあちこちにいらっしゃいます。競馬場にも祭られていますよ」

 その中でも、類を見ないほどの大きさで広く信仰を集めているのが、妙光院の「馬頭さん」だ。

 参拝に訪れるのは騎手や馬主ら競馬関係者だけではなく、動物病院や動物園の関係者、動物実験に携わる研究者のほか、交通安全を祈願する人も。その厳しく力強い姿に引き付けられ、プロの格闘家まで足を運ぶという。

 「北海道の競走馬の牧場で馬頭さんを祭ったり、各地の競馬場で馬頭さんの開眼法要をしたりしたため、各方面とご縁があります」

 特別に、境内にある供養塔を拝観させてもらった。「流星の貴公子」と呼ばれたテンポイント、G13勝を挙げたライスシャワー、快速サイレンススズカ…。往年の名馬のたてがみと蹄鉄(ていてつ)が納められ、ニンジンやリンゴが供えられている。

 動物愛護の観音らしく、愛犬や愛猫の名前もたくさんある。「近年増えているペットの供養では、ほとんどの飼い主が泣かれます。馬頭さんは多くの人に必要とされていますね」

 山麓の仏は厳しくも優しく、生きとし生けるものを見守ってくれている。(安福直剛)