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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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スライダーに人工波 新神戸大プールの面影求めて 2019/03/21

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 「夏が来ると、時々思い出す。深江浜(神戸市東灘区)のおっきなプール」。同僚や地元住民らからこんな声を聞いた。プールと言えば、六甲アイランドにあるデカパトスしかイメージできなかっただけに、どんなものだったのか知りたくなった。名前は「新神戸大プール」。人工の波が押し寄せる屋外プールで、1972年の開業当初は7、8月の2カ月間に約26万人が利用したが、95年の阪神・淡路大震災以降、営業中止に。面影を求め、かつての関係者や利用者らに話を聞いた。(末吉佳希)

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 解体された跡地周辺には現在、ホームセンターや飲食店が並ぶ。まずは、運営していた神戸市開発管理事業団(現OMこうべ)の元へ。「当時を知る人はもういませんが」と担当者の原幹生さん(56)が、同事業団の設立20周年の記念史を広げ説明してくれた。

 敷地面積は約1万9500平方メートル。中心部に伸びるウオータースライダーを流水プールが囲み、人工の波が打ち寄せる「造波プール」には大人も子どもも目を輝かせた。営業は7、8月の2カ月間で、採算は取れず赤字が続いた。シーズンオフの活用策も次々と打ち出され、プールサイドをゴーカートが走れば、更衣室には卓球台が並んだ。

 著名人も訪れた。女優・伊藤かずえさんが登場すると会場は沸き、グラビアアイドル・堀江しのぶさんの水着姿に男性陣が色めき立った。「歌手・石川秀美さんも歌っていました」と原さんは笑みをこぼした。

 地元深江で生まれ育った自治会長の森口健一さん(73)は「遊泳中に口に入る水が塩辛くないことが、何よりの驚きだった」と目を見開いて語り始めた。

 深江の浜ではかつて、小学校の水泳教室が開かれ、子どもたちがカニ取りをして遊ぶほどきれいな海だった。しかし、産業化や埋め立て工事の波にのまれ、いつしか浜は失われた。「潜ろうものなら、油で胸がべったりだった」と森口さん。「再び深江の浜で泳げる、そんな気になれました」と森口さんは目を細めた。

 最後は、営業中止の前年まで通いつめた、現在は主婦の女性(39)=兵庫県西宮市=に思い出を語ってもらった。当時中学3年生。「打ち寄せる波が不思議でじっと見詰めてみたり、流水プールではわざと流れに逆らってみたり。全てが初めての経験だった」。ウオータースライダーは1時間ほど列に並ぶのが当たり前で、自分の少し先に当時好きだった人を発見したときは、心が弾んだ。

 「水着の写真はあったけど、どれもプールは写ってなかった。幻だったのかな」とこぼした女性の一言が忘れられない。

 20周年記念史にあった当時の写真を掲載します。あの頃訪れていたあなた、どこかに写っていませんか。