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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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「1日でも多く笑って生きたい」高齢化進むキャナルタウン 2020/01/15

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 「68%」

 都市再生機構(UR)などが所有する物件を神戸市が借り受け、家を失った被災者に低家賃で提供する市内の借り上げ復興住宅の高齢化率(65歳以上)だ。今後、20年の返還期限を順次迎えることから一層の高齢化が予想される。

 市内最大規模の借り上げ復興住宅「キャナルタウンウエスト」(兵庫区駅南通5)は2016年1月、市内で最も早く返還期限を迎え、この問題のトップランナーとなった。市が明け渡しに応じなかった住民を提訴する事態に発展し、現在も一部の住民との間で訴訟が続いている。

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 「体力のある人は出て行き、自立が困難な人だけが残った」

 近くに住む元住民の影本峯子さん(78)は憤る。約20年前に住民が交流する「キャナルふれあい給食会」を立ち上げ、キャナルを離れた今も代表を務めている。

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 市の方針では、返還期限後も住み続けられるのは「85歳以上」「重度障害者」「要介護3以上」の条件を満たした人だけ。影本さんは「高齢者と障害者だけ残せば、地域で支えきれないのは明白だ」と区役所などへ出向いたが、方針は変わらなかった。

 影本さんは、夫婦で営んでいた同区の喫茶店が阪神・淡路大震災で全焼し、1998年頃、約800メートル先に建設されたキャナルタウンウエストに移り住んだ。

 「『キャナルは合衆国』と表現されるほど、多様な世代や家族構成の人たちが区内外から集まった。みんな震災で、それまでの暮らしがパーになったということだけが共通点やった」

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 経歴はバラバラでも、失われたコミュニティー、いわゆる「心の支え」を求めているのは同じだった。影本さんは他の住民と親睦を深めようとすぐに「ふれあい給食会」をスタートさせた。月に1回、おしゃべりの場を設け、100人以上の住民が参加。集会所は活気にあふれ、「喫茶店での経験が少しは生きたかな」と笑う。

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 市内の借り上げ住宅の高齢化率が68%と紹介したが、20年問題に直面したキャナルは90%超。影本さんの脳裏に映るのは「100%」になった時のこの街の姿だ。

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 「一度ああいう災害を経験した人は心のどこかに寂しさを抱えているもんやからね」と影本さん。「市は返還期限の20年で被災者がゼロになるとでも思ったのかしら。むしろ深刻よ。私ももうすぐ80歳。これまで通りの活動ができなくなるのもそんなに先じゃないわ」(伊田雄馬)