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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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62年経っても大人気 神戸の「人工衛星饅頭」 2020/01/31

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 神戸市民にはなじみがあるかもしれないが、社会人になって初めてこの街で暮らしはじめた私にとって、このネーミングはあまりにもインパクトが強すぎる。湊川公園西口の交差点を車で通るたび、赤の暖簾をついつい見てしてしまう。屋号は「大吉屋」(同市兵庫区上沢通1)と、とてもシンプルだが、その商品名はなんと「人工衛星饅頭」。しかも「関西名物」とある。大胆すぎる! 兵庫マンスリーが巡ってくれば、必ず取材しようと思っていた、その大吉屋の門をたたいた。(喜田美咲)

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 開店時刻の午後2時が近づくにつれ、どこからともなくわらわらと人が集まってくる。「今日は三つ」「いや四つちょうだい」。常連客とおぼしき女性が口火を切る。堂々とした買いっぷりに圧倒されている場合ではない。取材しなければ…。

 「人工衛星って、どんな饅頭なんですか?」

 思い切って質問を挟み込むと、「平べったい回転焼きのようなものです」と店長の山口和彦さん(54)は丁寧に答えてくれた。

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 ソ連(現・ロシア)が人類初の無人人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功した1957年、山口さんの父が「これだ!」とひらめいたという。翌年、人工衛星に見立てて薄く焼いた饅頭の店を開業した。「ブームに乗っかろうと、店名も人工衛星にしたんです」と山口さんはにやり。

 店名のインパクトに負けないよう、味にもこだわり、北海道産の小豆を使った自家製の餡は、甘さ控えめで飽きが来ない。薄皮仕立てで、子どもからお年寄りまで食べやすい。ただ、その形、人工衛星というより、「UFOに似ている」と思うのは私だけだろうか?

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 今年で開業62年。かつては1個60円だったが、材料費の高騰に合わせ、徐々に値上げし、現在は1個90円で販売する。山口さんは「変わらぬ味を守り抜くため」と説明する。

 1回に30個焼ける専用の焼き型は、常にフル稼働している。「スピード勝負だからいつも素手。熱さは感じなくなった」と山口さん。開店当初より営業時間を短くしたものの、今でも1日500個売れるという。帰省してきたという女性は、五つ購入し「子どもの頃からの思い出の味。実家に帰るときはいつも持って行くの」笑顔で話した。

 「はいどうも! いつもありがとう」。山口さんは手際よく饅頭を焼きながら、照れくさそうに声を掛けた。午後2時~同8時。不定休。