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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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震災以降プレハブで25年間営業 神戸・新開地の居酒屋 2020/02/09

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 神戸市兵庫区新開地本通り沿いに建つ2階建てのプレハブが気になった。すぐ近くに「ボートピア神戸新開地」(兵庫区新開地4)がそびえるせいか、ひときわ小さく見える。店先には居酒屋「冨月」の暖簾。午後6時すぎ。店から漏れ出る灯りに吸い込まれるように仕事帰りのサラリーマンらが入っていく。私もその後に続いた。

 「いらっしゃい」。出迎えてくれたのは、店主の高利光さん(54)と妻悦子さん(53)夫妻。1階は約20のカウンター席、2階は予約限定の焼き肉スペース(約30人)になっている。

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 先代の両親が焼き肉店「風月堂」を創業したのは1965年。85年に高さんが2代目となった。辛味のある秘伝のタレで食べるシビレン(牛の胸腺)や、塩コショウで味付けされたブタの胃袋、マグロのすきみは、常連客に愛される看板メニューだ。

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 95年の阪神・淡路大震災では、木造2階建ての店舗が全壊。「みんなが悲しんでいるからこそ、頑張らなあかん」と10日後には、キャンプ用の道具を使って路上に仮店舗を出し、肉やおでんなど約10種類のメニューを1人前500円で提供した。同年9月にプレハブ店舗を再建し、以来、この建物で営業を続ける。ボートピアができたのに合わせ、99年に「冨月」として再スタートを切った。

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 店が軌道に乗り始めた矢先、さらなる悲劇が高夫妻を襲った。6年前、悦子さんにがんが見つかり、抗がん剤治療を続ける生活が始まった。悦子さんの変わりに調理場に立ち、高さんを支えたのは、新開地でともに育った仲間だった。

 「困った時はお互いさま。人情味が今も残っているのがこの街の魅力」と高さんは笑顔を見せる。

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 カウンター席にかごがあり、注文と同時に支払いを済ます「前金制度」もこの店の特徴だ。闘病生活から復帰し、調理場に立つ悦子さんに理由を尋ねてみた。

 「ボートピアのお客さん多いでしょ。舟券を買うのは1分1秒を争うの。もたもたしてお客さんに迷惑を掛けたくなかったのよ」(千葉翔大)