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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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野口五郎もアン・ルイスも来た 創業85年、昭和の香り残るレコード店 2020/02/12

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 大衆の街・新開地(神戸市兵庫区)に集まるおっちゃんは演歌が好きだ。場外舟券売り場「ボートピア神戸新開地」の前で、立ち飲み屋で、雀荘(マージャン店)で、決まって口ずさむのは演歌だ。他人の目線など気にもとめない。時にこぶしをきかせ、時に音をはずしても、堂々と歌い上げる。

 「昔は昼夜問わず人の流れが絶えんかった。向かいの建物が見えへんくらい人がごったがえしていた」

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 ボートピアの前で「砂川レコード店」(兵庫区新開地4)を営む砂川清さん(67)は懐かしむ。「漁火街道」「わすれ酒」「加賀友禅」…。新開地本通りに面する店のガラスや店内の壁には、女性演歌歌手らのポスターがびっしり張られている。

 このご時世、目にすることが少なくなってきたカセットテープやCDが、歌手やジャンルごとに整然と並ぶ。その数は約3千枚(本)。商品の大半は演歌だが、「大人のための大人のベスト盤コーナー」には、ピンクレディーや太田裕美、高田みづえなど往年のアイドルのゴールデンベストが、「値引き販売コーナー」には、ビートルズのベストが存在感を放つ。

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 祖父の安次郎さんがこの地に店を構えたのは戦前の1935年。喫茶店からのスタートだった。新開地の発展とともに、パチンコ店や映画館など事業を広げ、2代目で父親の盛彦さんの時代に、店舗の一角にレコードを並べた。

 子どもの頃から店を手伝って育った砂川さん。「売り出し中の野口五郎やアン・ルイスらがやってきたり、多い時で1日3回ほど、若手シンガーらが店頭でコンサートを開いたり。ええ時代やった」

 きらびやかで、わいざつで、刺激に満ちた街は、時代とともににぎわいを失った。阪神・淡路大震災は、そのスピードを加速させた。砂川さんの店舗も大きな被害を受け、店を再建した。

 「歌は世につれ世は歌につれ」というが、ネットで音楽を聴く時代、カセットはおろか、CDさえも“レア”扱いされる。それでも、85年続く、祖父からの店を守る思いにぶれはない。

 「50年前から来てくれるお客さんもいるんよ。だから頑張れる」

 店のスピーカーから新開地本通りに流れる演歌。それを口ずさむおっちゃんたち。昭和の大衆文化を伝える残り香がここにあった。(千葉翔大)