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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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スナック店長“永ちゃん”に 8年前、客の一言から 神戸・新開地 2020/02/25

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 「キング・オブ・ロック」。人は彼をこう呼ぶ。しゃがれた声で観客を熱狂の渦に巻き込み、甘いバラードで聞き手の心を震わせる。ミュージシャン矢沢永吉(70)だ。新開地かいわいの取材を続けていて何度もこんな言葉を耳にした。「新開地にも“永ちゃん”がいる」。何を隠そう、私は筋金入りの永ちゃんファン。会ってみたい。衝動を抑え切れず、体が勝手に動いていた。(千葉翔大)

 その人は、新開地本通りにあるスナック「セリーヌ」(神戸市兵庫区)にいた。「会員制」の札が掲げられた扉を開けると-。

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 アイラブユーオーケー/この世界にたった1人の/お前に俺の愛のすべてを-。

 白星がちりばめられた黒色のワイシャツに、白髪交じりの前髪を中央に集めた男性が、白のマイクを片手にパワフルな歌声を響かせていた。間違いない。“永ちゃん”だ。

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 セリーヌの店長高秀夫さん(60)。生粋の新開地っ子だ。焼き肉店、その後、スナックを手掛けた両親の店を引き継いだ。

 「偶然入ってきたアベックに『永ちゃんに似てる』って言われてなあ」

 8年前、大病を患った高さん。回復したが、かなり体重が落ち、細くなった姿に、カップルの客がこう言った。「マスター。永ちゃんにそっくりや」。この一言をきっかけに、モノマネを始めた。

 動画投稿サイト「ユーチューブ」やライブDVDを見て、“ご本家”の立ち振る舞いを研究した。永ちゃんのそっくりさんが集まる場所にも出掛けたり、歌やダンスパフォーマンスを磨いたりした。

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 「首はニワトリの動きを意識するんや」。人が擦れ違うのもやっとな調理場を右へ左へ動き回る。ステージの大きさや広さは違えど、店内は高さんの独壇場だ。

 ボルテージが最高潮に達した店内で、締めの1曲をリクエスト。リズミカルなイントロが店内に流れると、「E.YAZAWA」とプリントされた特大のタオルを羽織り、高さんは深く息をついた。

 乗ってくれ、HA~HA/ロックンロールナイト、HA~HA-。

 「東の浅草、西の新開地」と呼ばれた時代は今は昔。しかし、人の心を動かすエンターテイナーは、今もこのまちに生き続けている。

 「ホンマのモノマネをする人は、歌詞を完璧に覚えている。俺はまだまだ。今も修業中や」。そうほほ笑みながら、静かにマイクを片付けた。