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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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異彩を放つ“アート”な空間 神戸・新開地のゲストハウス 2020/03/06

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 人情味あふれる下町情緒の中に、どこか退廃的な雰囲気を漂わせる新開地(神戸市兵庫区)で、異彩を放つ“アート”な空間がある。ゲストハウス「ユメノマド」だ。新開地で生まれ育った三上真由美さん(43)が、祖母の経営していたホテルを改装し、2013年にオープン。和もあれば洋もある多彩なタイプの部屋や、ゆったりとくつろげる共有スペースが、外国人旅行者を中心に人気を集めてきた。開業から7年を経て「街の景色に溶け込んできたかな」と三上さんはほほ笑む。(伊田雄馬)

 年季の入った板張りの床にアンティーク調の家具が置かれ、個性的な照明がつるされた共有リビングは、まるでカフェのよう。「実際にカフェとして営業することもあるんです。知ってる人しか来ないけど」と三上さんは笑う。

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 小学6年まで暮らした新開地に戻ってきたのは、20代のとき。以来、1998年に亡くなった祖母の家とホテル「夢の里」を「ゲストハウスにできないか」と、ひそかに夢を抱いていた。2012年、15年続けたエステティシャンの仕事を辞めると、ついに開業を決意した。

 祖母の残したホテルとは、いわゆるかつての「連れ込み宿」。当時感じた独特なムードは、今も記憶に残っている。「同性同士や高齢のカップルもいたし、携帯電話をいっぱい持った怪しげな人も来てた」

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 改装前には単身渡米し、ニューヨークで半年間暮らした。そこで得たのは宿づくりのヒント。「セレブの集まるエリアと、マイノリティーの暮らすダウンタウンが近接していて、それが街全体の魅力につながっていた。それって神戸でいうと、おしゃれな観光地の三宮やハーバーランドと、古い歓楽街の新開地みたいな関係だな、と」

 世界の中心地から見えてきた、神戸の下町観光の可能性。「新開地の魅力もきっと外国人に伝わるはず」。三上さんの胸に、ぽっと明るい光がともった。

 宿のコンセプトは「ローカルな暮らしを楽しむ」。A面の神戸とはひと味違う体験をしてもらおうと、自宅のようにリラックスできる空間を目指した。

 シックな色合いの和室やバラ模様の真っ赤な壁紙を貼った洋室、二段ベッドが並ぶドミトリー(相部屋)…。改装した部屋は一つ一つ雰囲気が異なる。旅行客に「選ぶ楽しみ」を提供し、明るい気分で街へ繰り出してもらいたい-。そんな気持ちが伝わったのか、外国人旅行者が集まってきた。

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 反応は上々だ。「立ち飲み屋で居合わせた人にビールをおごってもらった」「『よく来たね』と声を掛けてもらった」。笑顔で宿に帰ってくる姿を見ると、「努力が報われた気分になる」と三上さん。親子が泊まれるよう、さらなる改装の案を練っているという。

 「新開地のにぎわいは減ったけど、復活の芽はゼロじゃない。だから、一人でも多くの人に新開地を歩いてほしいんです」

 屋号には、遊牧民を意味する「ノマド」をかけた。遊牧民のように、居心地のいい場所を選んで旅する人の居場所になれれば、と願う。

 三上さんの「ユメノマド」は世界に開いている。