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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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喜劇王チャプリン、84年前の珍道中 京都・奈良観光やめて向かった先は… 2020/03/17

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 山高帽をかぶった上半身のシルエット。かつて“映画の街”といわれた新開地(神戸市兵庫区)のシンボルゲート「BIGMAN」を見た人が思い浮かべるのは、親日家だった喜劇王チャプリンの姿だ。戦前には3回来日したとされるが、2度目の1936(昭和11)年には、なんと京都・奈良観光をキャンセルしてまで、新開地周辺を散策していたことが、当時の神戸新聞の報道から分かる。神戸の熱狂的なファンへのごあいさつ? それとも、やっぱりアレがお目当て?(杉山雅崇)

 36年3月7日付本紙夕刊は、4年ぶりに来日したチャプリンが前日、横浜港に到着したことを「喜劇王また来朝」と4段見出しで大々的に報じた。紙面によると、ポーレット・ゴダードとの新婚旅行中に急きょ日本行きを決め、7日からの予定は「京都・奈良の観光、奈良ホテルに1泊、8日神戸出帆」となっている。

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 だが、チャプリンの向かった先は違った。8日付夕刊の見出しは「気まぐれ喜劇王 円タクで神戸をぐるぐる回り」。東京発の夜行列車に乗ったものの、どうやら京都は素通りだったらしく、お昼前に三ノ宮駅へ到着している。

 神戸は4年前に入港した時、熱烈な出迎えを受けた地。その印象が、頭をよぎりはしなかっただろうか。

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 本紙記者は、チャプリンの拾ったタクシーを追跡し、足取りを詳細に記録している。

 夫妻と日本人秘書らの一行は、加納町へと北上し、山手から西へ。湊川公園の楠木正成像を見学し、福原遊郭を横目に栄町通へ抜けると、再びトアロードを北上。三ノ宮駅から海岸通へ下り、さらに神戸税関、第三突堤へ-というルートに、記者も「100パーセントの気まぐれぶり」とあきれ気味だ。

 神戸巡りの最後は、湊川神社への参拝。湊川公園でも、楠公さんを「日本の英雄だよ」と妻に説明していたというから、なかなかの神戸通だ。

 湊川神社の広報担当者に伝えると、「チャプリンの参拝記録は、空襲の影響からか残っていない」と驚き顔。「前年には『大楠公600年祭』が挙行されており、関心が高まっていたのでは」と推測する。

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 おそらく2時間余りも走り回り、最後に立ち寄ったのは料亭「菊水」。ここで名物のすき焼きに舌鼓を打っているが、実は4年前の初来日時、神戸で最初の昼食を取ったのも、菊水だ。

 喜劇王もやっぱり、神戸ビーフの味に魅せられていたのかもしれない。

 そして午後4時ごろ、船上へ。新開地かいわいで育った映画評論家・淀川長治さんが念願の対面を果たしたのは、このときだという。

 記事は「桜の頃またやって来る」との言葉で締めくくられているが、3度目の来日は5月。既に桜は散っていた。

 2月に二・二六事件が起き、暗雲が垂れ込めてゆく時代に、チャプリンが繰り広げたドタバタ喜劇さながらの珍道中。ミナト神戸ならではの歴史の一コマが、目に浮かぶようだ。