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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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名湯の子育て設備充実旅館 きっかけは女将の東京出張 2019/09/25

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 3世代家族15人が働く名物旅館がある-。そんな話を耳にして、神戸市北区有馬町の「元湯龍泉閣」へ向かった。旅館には充実のキッズスペースをはじめ、ベビーベッドや子どもが安心して入れる浅い浴槽など、家族連れにうれしい配慮がたっぷり。子ども向け施設に注力するきっかけは、女将の當谷麻矢さん(43)の「東京出張」だった。「一度しかない幼少期。我慢せずにすてきな思い出をつくってほしい」と語る。(伊田雄馬)

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 麻矢さんは同旅館の逸郎社長(46)の妻。逸郎さんは3人兄弟の長男で、2人の弟も旅館に勤務する。逸郎さんの父母と3兄弟の夫婦に加え、それぞれの子どもたち7人も手伝う。従業員は家族以外を含め、約30人だ。

 入ってすぐに見えてくるのは、色とりどりの遊具やおもちゃを備えたキッズスペース。芸妓をイメージした音が鳴る遊具や、有馬温泉の地図をアレンジした巨大すごろくはどれも旅館のオリジナル。絵本コーナーには約1500冊がずらりと並ぶ。「子どもを預けるのではなく、一緒に楽しめる施設を目指した」と麻矢さんは言う。

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 麻矢さんは関西学院大の在学中、3学年上の逸郎さんと出会って学生結婚。阪神・淡路大震災の発生後、旅館の経営を担うことになった逸郎さんを支えるため、在学中に働き始めた。「学生女将」としてメディアからも注目を集め、26歳で男児を出産。仕事に復帰した後、テレビ局からの取材依頼を受け、生後8カ月の子どもを連れて泊まりがけで東京に出掛けたという。

 宿泊したのは都内のビジネスホテル。「哺乳瓶は洗えない、離乳食が温められない、食器もない…。すごく大変でした」。その経験から、子育て世代にも優しい旅館づくりを思い付いた。70度に設定できる電気ポットや小さな絵本コーナーなどを少しずつ設置。家族の子どもから意見を取り入れ、キッズスペースもどんどん充実させていった。

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 会員制交流サイト(SNS)でも積極的に子ども向け施設をPRし、今では利用者の8割が乳幼児のいる家族客。来るたびに子どもの人数が増えるリピーターや、「親の還暦を祝いたい」と親子3世代で訪れる客もいるという。

 當谷家の7人の子どもたちも成長し、今後、旅館の運営を担う。最年長で逸郎社長のおいに当たる凜弥さん(19)はこの春、先陣を切って正式に旅館の従業員になった。フロント業務や館内清掃などを担い、「両親やおじ、おばが楽しそうに働いているのを見て、自然と就職していた」。最近、駐車場に道案内の看板を設置したのは凜弥さんのアイデアだ。「意見を言いやすいのが家族の良さかな」とはにかんだ。

 子どもの笑顔はみんなの笑顔。子どもを大事にする旅館は多くの笑顔に包まれていた。