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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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“神戸の奥座敷”で私設美術館 旅館だった日本家屋に作品展示 2018/10/31

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 神戸電鉄丸山駅から階段や坂道を何度も上り下りしてたどり着いたのが、昭和初期に「青山」という名の旅館だった日本家屋だ。往時の姿そのままに、今は「神戸わたくし美術館」(神戸市長田区西丸山町2)として開放されている。女将だった祖母から建物を引き継いだ元医師三浦徹さん(81)が集めた絵画や陶器などのコレクションが展示されている。「この辺りは戦前、神戸の奥座敷と呼ばれていてね…」。三浦さんがゆっくり語り始めた。(石川 翠)

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 1933(昭和8)年築。屋久杉を用いた贅沢な造りで、斜面を利用した変形の3階建てになっている。38年の阪神大水害や45年の神戸大空襲、95年の阪神・淡路大震災にも耐えてきた。

 「花隈や福原の花街で遊んだ帰り、有馬温泉までは遠すぎる、そんな客たちが丸山にやって来てました」と三浦さん。桜で知られた行楽地があり、苅藻川沿いにホタルが飛び交う風光明媚な町並みだった。青山含む計4軒の旅館と温泉場があったという。戦後、すり鉢状の斜面を埋め尽くすように住宅が建ち、町並みは一変した。青山もしばらく保養所として続いたが、昭和30年代に閉館した。

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 三浦さんが、両親と兄弟とともに、この建物に引っ越してきたのは18歳の頃。以来、60年余り、この地で暮らす。県立神戸医科大学(現・神戸大医学部)を卒業後、産婦人科医として、多くの命をこの世に送り出してきた。97年には当時勤務していた病院に、助産師が主体となって分娩を扱う全国初の院内助産科を設けた。県産科婦人科学会長も務めた。

 その傍ら、独自の審美眼で陶器などの美術品を収集してきた三浦さん。「自宅を美術館にしよう」と思い立ち、作品を置き並べてみたところ、壁がさみしく、日本家屋にしっくり合う絵画にも手を広げた。

 神戸港で荷役をしながら絵を描き続け、新開地のゴッホと呼ばれたタカハシノブオ(1914~94年)や兵庫区の美術家、堀尾貞治氏らの作品は千点を超えるという。

 三浦さんは「アート好きは祖母の旅館にしつらえられていた季節折々の掛け軸や生け花などが原点」と振り返り、「高名な画家よりも、世に埋もれた、質の高い作家を取り上げる」と話す。2000年に「神戸わたくし美術館」をオープンし、妻の秀子さん(75)と2人でもてなしてくれる。

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 高齢化が進み、空き家が増え、「神戸の奥座敷」と呼ばれた時代の面影もなくなった丸山。自身の愛蔵品を空き家に置くなどして、「地域が活気付くお手伝いができれば」と構想している。予約制。無料。TEL078・621・0366