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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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“長屋文化”再生目指す 神戸・長田の高齢者施設 2018/11/11

記事

 神戸市営地下鉄海岸線の駒ケ林駅から六間道商店街を抜けてすぐ。サービス付き高齢者向け住宅「はっぴーの家ろっけん」(長田区二葉町1)は、夕方になると近くの子どもたちでにぎわう。施設の入り口にあるボードには「赤ちゃんが生まれました!」と、地域の話題を紹介する手書きのメッセージがある。代表の首藤義敬さん(33)は「ここは利用者の生活の場だけじゃなくて、地域の人たちが気軽に集う空間なんです」と力を込める。

 施設は昨年3月にオープンし、現在は約20人の高齢者が入居している。首藤さんは区内の空き家再生事業に関わっていたが、「子育てと介護を地域で支えたい」と奮起。開所前には真陽地区の住民とワークショップを重ね、利用者が食事をする1階のフロアを原則開放している。毎週延べ200人近くが訪れるといい、日本一周中の旅人がアポなしで訪ね、即席のトークショーを開いたこともある。

 「施設を地域拠点に」との思いの根っこには、自身の経験がある。同区で生まれ育ったが、阪神・淡路大震災でまちが一変。人口減少による衰退や、再開発で大規模マンションが次々と建つ様子を見て、子ども心にも「人のつながりが断ち切られた」と感じた。「長田は外国人も多く、いろんな人を受け入れる寛容さが昔からあった。人が寄り添う“長屋文化”の再生を手掛けることが使命だと思ったんです」

 子育てに忙しい仕事帰りの女性たちがキッチンを使って料理を作ったり、子どもたちは拭き掃除のご褒美にテレビゲームをさせてもらったり-。時には若手の行政職員が集い、まちづくりの議論を交わす場にもなる。施設利用者が、ここで過ごして多世代交流が増えたことで、介護度が下がったケースも少なくない。

 施設の取り組みは全国的にも珍しく、視察が絶えない。首藤さんは「遠くの親戚より近くの他人同士の方が、困ったときに支え合える。ここが地域の顔見知りをたくさんつくる場に育ってほしい」と熱く語った。

■施設の常連 小笠原舞さん「まち全体が、親子丸ごと優しさで包んでくれる」 

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 関東から神戸に移住して2年余り。昨秋には真陽地区に引っ越してきた。「地域の人が家族のように接してくれる。長田にはお金で代えられない、まちの宝がたくさんある」と笑う。

 大学時代は保育と福祉を学び、地域コミュニティーの形成やまちづくりに関心があった。2013年からは、保育所の立ち上げを監修したり人材育成をしたりする「保育士起業家」として、関東を中心に活動をスタート。一方で、神戸に住む夫の元に通うたび「自然豊かで交通アクセスの良い神戸に引き込まれて」移住を決意した。

 生後3カ月の長男楽汰ちゃんと散歩すれば、通り掛かりのおばちゃんが声を掛けてくれる。喫茶店でモーニングを頼んだときも「ゆっくり食べて」と抱っこを代わってくれる。「はっぴーの家ろっけん」の常連でもあり、「まち全体が、親子丸ごと優しさで包んでくれると実感している」と目を細める。出張もあるが、知人らが預かってくれる安心感もある。

 保育士の視点を生かして、今後、地域の子どもたちと関わる取り組みを模索中だ。「ベビーカーを押していても肩身の狭い思いをすることはないし、まちの人が助けてくれる。ここでどんな子育てができるのか、考えるだけでわくわくします」(久保田麻依子)