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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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KOBEテロワール 神戸ワインの産声(4)過剰在庫で苦渋の決断 2019/11/13

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 健康志向の「赤ワインブーム」で飛ぶように注文が入った1998年、神戸ワインは110万本を売り上げた。しかし、翌99年以降、ブームに陰りが見え始め、国内のワイン消費量は下降線をたどる。

 神戸ワインも同様、売れ行きが鈍り、株式会社神戸ワイン(現・神戸みのりの公社、神戸市西区)で営業畑を歩き続けたワイン事業部長大西省三(61)は次第に大量の在庫に頭を悩ませていく。

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 「これじゃ、在庫処理のために働いているようなもんや」

 大手スーパーのバイヤーの元に日参し続けたある日、大西は自嘲気味につぶやいた。売り場の拡大を頼み幾度も頭を下げたが、ボトル千円を切る海外産の格安ワインに押され、神戸ワインが入り込む余地は限られていた。

 99年、在庫本数は約240万本に膨らみ、2001年には年間販売量の5倍近い約380万本まで達した。追い込まれた同社はブドウの買い取り制限に踏み切ったが、効果は薄く在庫は高止まり。市から約40億円の貸付金を受けることになった。

 「民間企業なら破たんだ」

 「危機意識が薄い」

 市議会では多くの批判にさらされ、「民間に売却するか事業廃止を検討すべきだ」という声も上がった。

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 「ブドウ栽培 桃、カキに転換/上級種に限定/今春から一部農地」

 04年3月3日、本紙神戸版トップにこんな記事が掲載された。

 経営改革を進める同社は、市場規模に見合う生産量へ縮小するため、西区押部谷町の約18ヘクタールを対象にワイン用ブドウから他品目への植え替えを依頼した。神戸ワインの構想から約30年、職員は苦楽を共にした農家に「木を切ってくれ」と頼まざるを得なかった。農家との共倒れを防ぐための苦渋の決断だった。

 西区平野町の印路生産組合代表(当時)の安尾勝(79)は「買い取り制限には組合の中で異論もあった。だが、消費動向を考えれば仕方なかった。むしろ『いいブドウを作るから、単価を上げてくれ』という意気込みやったね」と振り返る。

 安尾らは農作業がない秋に国内の他のワイナリーを視察し、時に仕込み作業も体験した。醸造工程への理解は「一緒にワインを作る」というワイナリーとの一体感につながっていった。

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 「量より質」への転換を目指し、第二のスタートを切った神戸ワイン。ちょうどその頃、1人の女性醸造士がフランスへ武者修行に旅立った。後に同社の最高級ワイン「ベネディクシオン」を完成させる渡辺佳津子だ。(敬称略)

(伊田雄馬)