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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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マスクから対テロ用ワクチンまで ダチョウの抗体「あらゆる菌に応用可能」 2019/12/30

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 突然ですが、ここでクイズを1問。「世界最大の単細胞って何?」。正解は「ダチョウの卵」。神戸市西区の農村部・神出町ではダチョウの卵から作った抗体を使い、画期的な抗菌作用を持つ商品が続々と誕生している。薬局で買えるマスクから米陸軍の対テロリスト用ワクチンまで。日本での生産拠点は約45羽を飼育する西区のみという。開発のきっかけは、獣医師で京都府立大学(京都市左京区)の塚本康浩教授(51)の「気付き」だった。(伊田雄馬)

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 「なんであんなに頑丈なんだろう」

 2001年ごろ、塚本教授は牧場を駆け回るダチョウを見てふと首をかしげた。当時、千葉県でBSE(牛海綿状脳症)感染牛が見つかり、代替肉としてダチョウが脚光を浴びていた。神出町でも約100頭を飼育する牧場が誕生し、塚本教授は主治医として定期訪問していた。

 ダチョウの寿命は50~60年。けがを負ってもすぐに治り、劣悪な衛生環境でも病気にならない生命力を持つ。塚本教授が試しにウイルスを注射したところ、約2週間で体内に抗体ができた。「他の動物ならやっと抗体ができ始める時期なのに…。ダチョウはすでに商品化できるくらいの量になっていた」。抗体は卵に凝縮され、1個でワクチン接種8万回分が精製できることも分かった。

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 「製造コストはマウスや鶏を使った場合の4千分の1」と塚本教授。素早く、大量に作れる抗体を使い、08年に完成した商品が「ダチョウ抗体マスク」。マスクにしみこませた抗体がインフルエンザウイルスに結合し、感染を防ぐ効果があるという。同様の手法で花粉症にも効くマスクを作り、これまで計約7千万枚を売り上げた。

 その後もアトピー性皮膚炎の患者向け化粧品▽虫歯菌の抗体入り口腔(こうくう)洗浄液▽アレルギー用キャンディー-などを開発。14年ごろには、米陸軍からも共同研究の依頼が舞い込んだ。

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 その対象はアフリカで流行し、「殺人ウイルス」の別名を持つ感染症「エボラ出血熱」。生物兵器によるテロ攻撃に備えたワクチンや防毒のスプレー剤の開発に尽力した。商品はシンガポールや香港の国際空港などでも使用されているという。塚本教授は「あらゆる菌に応用が可能なのが強み」と説明する。

 西区に時折様子を見に来る塚本教授を4年前、思わぬアクシデントが襲った。「怒ったオスから跳び蹴りを食らって…」。巨体から繰り出されるキック力は4トンを超える。ひざを骨折し、2カ月間の入院を余儀なくされた。今春もあばら骨を蹴られて骨折し、激痛に見舞われたという。

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 これまでダチョウの行動パターンを研究したこともあったが成果は得られず、このままでは今後もきっと、手痛いキックを食らいそうだ。その前に…。

 「ダチョウのキックを防ぐ抗体、作れませんか?」