People People

M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

Kobe
People People People

解体危機乗り越えたユニークな歴史 「旧グッゲンハイム邸」 2018/08/30

記事

旧グッゲンハイム邸を拠点に塩屋のまちづくりに取り組む(右から)森本アリさん、山森彩さん、小山直基さん、藤原幸司さん=旧グッゲンハイム邸

 JR塩屋駅(神戸市垂水区)から東に徒歩数分。踏切を越えてすぐの石段を上ると、緑に囲まれた洋館「旧グッゲンハイム邸」(垂水区塩屋町3)が出迎える。隣接する事務所で迎えてくれたのが、塩屋で生まれ育った管理人の森本アリさん(44)だ。一時は解体の危機にも直面した同館はいま、イベント会場として市内外から人を呼び込む。そのユニークな歴史とは-。(久保田麻依子)

 アリさんにとって同館はかつて、学校へ向かう通学路。幼い頃の身近な場所だった。企業の社員寮などとして使われていたが、その役目を終えると老朽化が進んだ。解体を心配した森本さんの母と妹が自費での購入を提案し、2007年春、森本家に管理が移った。

記事

イベント会場として活用され、多くの来場者でにぎわう旧グッゲンハイム邸(事務局提供)=2018年6月

 「実は家族の中で1番反対していた」とアリさんは振り返るが、音楽家としての活動の傍ら、同館を拠点に塩屋のまちのおもしろさを生かすイベントを次々と打ち出した。

 貸しスペースとして利用を始めた同時期、インスタントカメラを持って塩屋を散策し、現像した写真を同館で展示する「塩屋百人百景」(07年12月)の撮影会に、市内外から120人が参加。塩屋の古いまち並みが写った写真を撮影した「塩屋百年百景」(10年)も出版した。「普通電車しか止まらないベッドタウンだけど、歩いているだけでいろんな人に声を掛けられる、人懐っこいまち。まち中にサプライズと突っ込みどころがあって、それを受容する人の温かさがある」

 14年からは、同館事務局の小山直基さん(36)や、同館でシェアオフィスをしながらデザイナーとしても活動する藤原幸司さん(36)、山森彩さん(36)らを中心に「シオヤプロジェクト」を立ち上げた。まち全体を会場に見立て、音楽や展示会をする「しおさい」を塩屋商店会と主催するなど、話題に事欠かない。ライターの山森さんは塩屋での取材を進めていくうちに「まちの人に祝ってもらいたい」と思い立ち、4月には同館やまちの小道を使っての結婚パレードを実現させた。

 同館の存在が起爆剤となり、移住してくる若手の芸術家も多い。まち歩きの企画が得意な小山さんは「不動産屋でもないのに『あそこの物件はいい』と紹介することもしばしば。あれよあれよと移住してきた人を何人も見てきた」と笑う。藤原さんも「海と山が近い環境がいいし、ごちゃっとしたまちの雑音が居心地が良い」と話す。

 現在は、塩屋の人や名所、店を紹介する「しおやカルタ」の製作に熱が入る。「『まちづくり』や『地域資源を生かす』といったことを意識してやっているわけではなくて、近所の人も、よそから来た人も、塩屋というまちのダイナミックさをおもしろがってもらいたい」とアリさん。

 肩の力が抜けた柔軟さが、100歳を迎える洋館に輝きを与え続けている。

【旧グッゲンハイム邸】1909(明治42)年ごろ、ドイツ系米国人貿易商のジャック・グッゲンハイム氏の洋館として建築。コロニアル様式の2階建てで、当時は別宅や迎賓館として活用されていたとされる。その後個人や企業の手に渡り、空き家で老朽化していたところを2007年に森本さん一家が購入。現在は音楽イベントやヨガ教室、結婚パーティーの会場として利用されている。毎月第3木曜に見学会を行っている(予約不要、無料)。旧グッゲンハイム邸事務局TEL078・220・3924