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M's KOBE

海と山に囲まれた港都・神戸。明治期の開港をきっかけに、映画やジャズ、ファッションなど西洋文化をいち早く取り入れ、モダンでハイカラな街として発展してきました。

神戸新聞では2018年7月から市内9区をひと月ずつ訪ね歩く「マンスリー特集」をスタート。これまで紙面掲載された記事を集めました。神戸らしさを象徴する「海(Marine)」「山(Mountain)」「音楽(Music)」「神戸牛(Meat)」「出会い(Meet)」、そして「マンスリー(Monthly)」の頭文字「M」をあしらった、その名も「M's KOBE」。

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やっぱり“味”がある 昭和の風情残す垂水廉売市場 2018/10/03

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 垂水駅北側の再開発ビルと垂水センター街に囲まれた「一等地」にある垂水廉売市場(神戸市垂水区神田町)。古めかしい「レンバイ」の響きと相まって、平成時代が終わろうとする今も、昭和の風情が色濃く残る。この街の味わいは、センター街を紹介した若手記者たちには分かるまいと、ベテラン記者の私が、大人の散歩に出掛けてみた。(段 貴則)

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 市場内に入る通路は複数あった。いずれも天井は高く、明るいが、幅は約2メートルと狭く、ちょっとした迷路のように入り組んでいる。

 「トウフ・アゲ」「青物」「若鶏専門店」…。黄色の店看板は残るが、大半は閉店状態。閉じられたシャッターが、オジサンのおなかのようにぷくっと膨らんでいるのが印象的だ。

 「昔は南北の通路1本だけで、お客さんが増えたから、通路を東西、南北に継ぎ足し継ぎ足しした」

 教えてくれたのは、センター街にも面する精肉店ミカゲヤの岸本正造さん(66)。大正初期に祖父の代で創業後、1934(昭和9)年の市場立ち上げに加わった店という。

 古い資料によると市場開設当時、24店舗あったが、辺りは大邸宅ばかりで、市場で買い物しないため、どの店も御用聞きに回ってようやく息をつくような「開店休業」状態だったとか。戦後、人口が増え、最盛期には市場内の店は4倍近くになったらしい。

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 岸本さんと話をしていると、店先に並ぶ焼き豚の香りに食欲をそそられた。店の看板商品で、炭火でじっくり1時間ほど焼き上げてある。これが、ビールに合う! 岸本さんは「毎週月曜の売り出し日は、いつも120キロ分は売れますね」とニヤリ。

 ミカゲヤの斜め向かいに、こちらも市場開設時から続く鮮魚店「木下水産」がある。シンコの解禁日になるとイカナゴを買い求める長い行列ができる。

 「あれ?」。海鮮料理店も併設した店先の「いかなごくぎり」に目がとまった。「煮」ではなく「り」となっている。「書き間違いでは?」。3代目店主の木下宏忠さん(48)に聞いてみた。

 「うちは祖母の代から、くぎ煮じゃなく、くぎりでやってる」ときっぱり。昔は釘のように硬くなるまでいっていたから、「くぎ」と「いる」がなまって「くぎり」になったらしい。店では、しっかり炊き、余分なものを加えないことで、日持ちがするのが特長。木下さんは「もともと保存食やからね。自宅で炊けなくなった高齢者に喜ばれるよ」と笑う。

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 ただ、市場は老朽化し、十数店舗まで減った。市場を含めた再開発話も進んでいる。木下さんに市場の現状を聞いてみると「時代に取り残されたというのか、味があるというのか、ん…」との答え。「やっぱり味だと思いますよ」。