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ようこそ、12人の創作空間へ アトリエで新作公開 「KOBESTUDIOY3」作家展 |
更新日:2022年03月18日
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「人生において最も大切なもの」をテーマに創作するユラ・キムさんの作品群=KOBESTUDIOY3
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型染めの作品をアトリエで公開制作している染色デザイナーの池田圭さん=KOBESTUDIOY3
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未完成の絵画が大量に並ぶ八木淳一さんのアトリエ=KOBESTUDIOY3
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生と死を問う作品を手がけた河村啓生さん。紙粘土や流木だけでなく、サイトウヒデさんの陶も組み合わせた=KOBESTUDIOY3
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時間を絵画で表現する大橋麻里子さんのアトリエ=KOBESTUDIOY3
山際から港町を望むアトリエは、美や驚きを育むゆりかごだ。扉はいつも開かれている。表現の喜びだけでなく、もがき苦しむ姿さえもさらけだす。多彩なジャンルの美術家12人が集う「KOBE STUDIO Y3」(神戸市中央区山本通3)では、年に1度の「スタジオアーティスト展」を開き、昨春以降の新作を一挙に見せる。開放的な空間を巡り、創作の熱気を感じたい。(小林伸哉)
日頃から作家と観客の距離が近い。おじさんが「これおもろいなあ」と突然、作りかけの染色作品を触って喜ぶ(優しい作者だけれど、事前に許可を得るのがマナー)。描き手が不在の時間帯に、絵画に向けて「↑イイネ!」と書かれたティッシュが、床に置かれていたことも。誰のメッセージか分からないけど、励みになっている。
アトリエは神戸市立海外移住と文化の交流センター4階にある。1928年に「国立移民収容所」として開かれ、71年の閉鎖までブラジルなどへの移住者を送り出すために使われた。
NPO法人「C.A.P.(芸術と計画会議)」が99年から芸術活動に生かす。現在は30~60代の男女12人が、洋画、日本画、写真、立体造形、彫刻など多彩な表現に打ち込む。「毎日がオープンスタジオの日」と掲げ「ドアは閉めないのがルール」で、作品に加え制作過程も見てもらう狙いだ。
美しい色合いの絵が掛かる部屋では、机上にエナジードリンクの空き缶が無造作に並んでいた。創作に思い悩んだのか、意欲が燃えたぎったのか-。見る者の想像をかき立てる。
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壮大な実験の場だ。象徴するのは、八木淳一さん(52年生まれ)のアトリエだろう。白と黒で描いた未完の作品が増殖し、35年以上前から描き続ける絵もあるという。ある時から、個展に合わせて無理に仕上げず、自然と時の経過に任せ、筆を入れる「間」を見つけ加筆するようにした。しかし、本人は「泥沼への行進でした」と振り返る。
ユラ・キムさん(87年生まれ)は、草花や動物を板に描いて彫刻刀で掘り起こし、立体的に流れる模様を付け、命を生き生きと見せる。パレットとして使った牛乳パック約50点も飾る。鮮やかな色の変化は、空や木、花など多彩なモチーフに向き合った痕跡だ。
「生と死」を見つめる河村啓生(のりお)さん(87年生まれ)は、紙粘土や流木などを組み合わせたオブジェを作る。ホスピスでボランティア経験もあり「流木は一つとして同じ形がなく、ねじれも魅力。人間にも、そう感じられたらいいのに」。映像作品も上映し、死生観を深めるような気づきをくれる。
大橋麻里子さん(91年生まれ)は「目に見えず、触れない『時間』を可視化したい。今までやこれからを考える絵画になったらいいな」と描く。黙々と絵に没頭するが、「アートを身近に感じてほしい」から、突然訪れた人々と語り合う時間も大切にしてきた。
昨年11月に加入し、動物の絵などを出品したカタヤマアヤナさん(78年生まれ)の部屋には、80号のキャンバスがある。下塗りしただけで白いままだ。大きな絵画は初めてで「新しい種をまいているところ。この先どうなるか分からない」。4カ月ほど悩んでいる。新たな表現が生まれる瞬間に、立ち会うのはあなたかもしれない。
26日トークイベント
作家全員によるアーティストトークを26日に開く。2グループに分かれて午後2時から「絵画」、午後3時半から「アートとくらしとコミュニケーション」をテーマに語り合う。日頃はここで作品を買えないが、特別に販売コーナー「Y3 POP UP SHOP」が登場する(26日のトーク終了後~午後7時、27日午前10時~午後7時)。
会期は27日まで。22日は休館。午前10時~午後7時。入場無料。C.A.P.TEL078・222・1003