三田

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自費出版した「三田故郷探訪」を手に、ほほ笑む松崎杳子さん=神戸市北区
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自費出版した「三田故郷探訪」を手に、ほほ笑む松崎杳子さん=神戸市北区
孫の西田凪沙さんが描いた三田御池沿いの桜並木。右端に池の水面がきらめく
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孫の西田凪沙さんが描いた三田御池沿いの桜並木。右端に池の水面がきらめく
第10代の辻井吉之介町長=在任1929~36年=らと三田博物館前で記念写真に収まる、松崎さんの父川本水仙氏(左から4人目の背の高い人物)
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第10代の辻井吉之介町長=在任1929~36年=らと三田博物館前で記念写真に収まる、松崎さんの父川本水仙氏(左から4人目の背の高い人物)
松崎さんの夫が神戸空襲の際、家財道具を積んで逃げた大八車の車輪。居間の壁から家族を見守る=神戸市北区
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松崎さんの夫が神戸空襲の際、家財道具を積んで逃げた大八車の車輪。居間の壁から家族を見守る=神戸市北区

 昔の三田を、孫やひ孫に伝えたい-。旧三田町で生まれ育った松崎杳子さん(86)=神戸市北区=が、戦中・戦後の暮らしをつづった「三田故郷探訪」を自費出版した。身近な風景や出来事を、自作の俳句を添えて回顧している。表紙絵は松崎さんの話を元に、孫が三田御池沿いの桜並木を描いた。(高見雄樹)

 松崎さんは1932(昭和7)年、鍛冶屋町(現在の兵庫県三田市三田町)で生まれた。父はホトトギス派の俳人で、市文化協会の役員を長く務めた故川本水仙氏。旧三田町役場の幹部職員でもあった。松崎さんは県立三田高等女学校(現有馬高校)を卒業し、51年から約5年間役場に勤めた。

 街の様子が変わりゆく中、昨年春ごろから昭和初期の暮らしを少しずつ書き始めた。孫や親しい友人と街を歩きながら、当時を振り返っておしゃべりしているような筆致でまとめ、今年7月に完成した。

 当時にタイムスリップしそうな一節を紹介する。

 桜の並木道は春には花のトンネルで、ずうっと坂の上の小学校へと続き、御池の堤にも桜が咲き周辺は桜の名所であった。

 城下町 桜並木は 幻に

 松崎さんは9歳の時、裁判所(現在の法務局)近くに引っ越した。ここから三田小学校に伸びる並木道「桜の馬場」の光景がお気に入りだ。堤の桜はもうないが、孫の西田凪沙さん(20)=同区=が当時の情景を水彩画で表現し、本の表紙を飾っている。

 七曜橋の袂から古城の丘へと登る。(中略)雑木林を通り抜けると一瞬目の前がひらけ、原っぱに出る。春になると広場一面に赤紫の庭石菖が咲き乱れ、とても美しい。

 秘めやかに あの丘に咲く 庭石菖

 古城の丘から眺める三田の街並みが、松崎さんの原風景だという。すぐ近くに37(同12)年に完成した古城浄水場がある。

 お茶屋には大きな火鉢が置いてあり、いつも火が入れてあった。度のきつい眼鏡の小母さんは、手をきれいに拭い火鉢の上で翳して湿気を取り、おもむろに茶箱の蓋を開け、天秤でお茶を計ってくれるのである。お茶を買うのも子供の仕事であった。

 寒々と シャッター通り 古き町

 本町通り周辺にあった商店の様子が生き生きと描かれる。店の子どもには幼なじみも多く、かるた取りやお手玉、まりつきなどで遊んだ記憶は色あせない。

 松崎さんは「鍛冶屋町などの町名は消えてしまったが、大好きな三田という町の風情や息づかいを伝えたかった」と話している。

 A5判96ページ。非売品だが、市立図書館本館(南が丘2)で貸し出している。

■空襲の記憶伝える“命の車輪”

 「空襲警報が解除されて防空壕から出ると、三田の町は煙のような灰色に包まれ、赤茶色に染まった空が六甲山の先に見えました。言いようのない恐ろしげな光景でした」

 松崎杳子さん(86)が「三田故郷探訪」で振り返った戦争の描写がある。1945年3~6月に3回あった神戸空襲。時期の記憶は定かではないが、6月5日とみられる。当時、県立三田高等女学校(現有馬高校)の1年生だった。

 壕は、現在の古城浄水場から小川の方に下った斜面にあった。かつての三田町役場の裏手に当たる。神戸や大阪に比べると空襲の回数は少なかった三田だが、「4、5回は入ったでしょうか。壕の最も奥に、役場の大事な書類を入れた大きな桐箱があった」と振り返る。

 同じ頃、後に夫となる幸弘さん(2017年没)は戦火の中にいた。須磨・板宿の自宅が焼け、積めるだけの荷物を大八車に押し込んで、家族と北を目指した。目いっぱいの力で車を押したり引いたりし、六甲山を越えて母親の実家がある道場村(現神戸市北区道場町)に向かったという。

 松崎さんの自宅には今も、この大八車の車輪が大切に保存されている。居間の壁に掛けられたオブジェのようだが、所々がゆがんだ木製の車輪が逃避行の厳しさを伝えている。

 「これは家宝なんです。戦争の大変な苦労を乗り越えて、今の幸せがある」と松崎さん。

 あの夏から74年。“命の車輪”は、居間に集う家族を優しく見守っている。(高見雄樹)

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