三田

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(上)武庫川対岸から望む山谷口。トラック付近がとじ豆の崖で、昭和初期の河川拡幅前は付近に民家数軒があったという(右下)とじ豆の崖。確かに菓子の「豆板」に似ている(左下)おなつの夫がいたと伝わる向井坂=いずれも三田市貴志
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(上)武庫川対岸から望む山谷口。トラック付近がとじ豆の崖で、昭和初期の河川拡幅前は付近に民家数軒があったという(右下)とじ豆の崖。確かに菓子の「豆板」に似ている(左下)おなつの夫がいたと伝わる向井坂=いずれも三田市貴志
タヌキの穴があった場所を指す中後茂さん=三田市貴志
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タヌキの穴があった場所を指す中後茂さん=三田市貴志
挿絵・岩本芳子さん
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挿絵・岩本芳子さん
挿絵・岩本芳子さん
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挿絵・岩本芳子さん

 またもタヌキのいたずら話だが、少しかわいい。

 兵庫県道のバス停「山谷口」から西を望むと、農村が小高い山に挟まれている。南のそそり立った崖のふもとで「ここよ、ここ」と同県三田市出身の郷土史家、中後茂さん(82)が教えてくれた。

 藪を払うと、丸い小石がびっしりと詰まった土が見える。この珍しい崖を「とじ豆」と呼び、絶壁に穴があったという。「子ども時分は悪さをすると『タヌキの穴に連れていくでぇ』と大人に脅かされたもんや」

 確かに昔話「かちかち山」ではお婆さんを惨殺する動物だ。そりゃあ怖い…と思いつつ、地元の話を聞くとクスッとしてしまった。

 とじ豆にいたタヌキの「おなつ」は、近くの向井坂に住むオスの「やっかんころがし」と夫婦で、他にも付近の地名を冠した複数のカップルがいたと伝わる。

 「それなりに人と共生してたんやね」と中後さん。おなつは好物の柿を子どもが盗み食いしようとするのを邪魔するが、ドロンと化けずに「チロリン」と声を出すだけ。どこか人を怖がる姿は愛きょうもある。

 タヌキは今も水路から時々顔をのぞかせるという。ただ、市によるとアライグマが増えて今、一帯には15個のわなが仕掛けられる。1頭捕まったタヌキは逃がされたらしい。「最近は人も動物も油断ならないなあ…」とぼやきながら里山に帰る姿が目に浮かんだ。(安藤文暁、門田晋一)

   ◇   ◇

■三田の民話「とじ豆のチロリン」

 貴志の里の山谷口に、豆板のように平らな岩がそそり立った高い崖があった。村人は辺りを「とじ豆」と呼んでいた。

 崖の中ほどに穴があり、「とじ豆のおなつ」というメスの狸が住みついていた。村に出て鶏や畑の豆を奪い、人々を困らせていた。

 ある秋の日、おなつは川のほとりにある藁葺き屋根の家のそばまで来た。立派な柿の木が大きくて甘そうな実をつけていたのだ。

 そこへ男の子が2人来た。おなつは隠れて会話を聞いた。「わしが登るで、おまえは下で見張っておれよ」「わかった。で、合図は?」「チロリン、チロリン、な」

 男の子はするすると木に登り、柿をもぎとり始めた。人が来ると見張りの男の子が「チロリン、チロリン」と合図した。すると、素早く降りてきて、2人は何事もなかったように振る舞った。

 何回か繰り返した時、「チロリン、チロリン」。男の子が慌てて降りると誰も来ない。見張りの子も首を振った。また、木に登ると「チロリン、チロリン」。

 2人は考えた。どうやら騙されているような…。そうだ、とじ豆のおなつのいたずらに違いない。

 2人は相談して合図を変えた。「ホンチロリンにしよう」。おなつも、これはまねできなかった。

 その後、村人は「チロリン、チロリン」という声を耳にするようになった。村人たちは、おなつのことを「とじ豆のチロリン」と呼ぶことにしたそうな。チロリン。

(三田市「三田の民話100選」から。挿絵は岩本芳子さん)

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