有害鳥獣対策として兵庫県三田市内に設置されたおり状の「箱わな」は182個あり、5年前からほぼ倍増したが、2019年度に捕獲されたイノシシは168頭と前年度から半減した。その一因として専門家が言った。「賢くてわなを覚えてしまうんです」。〈猪突(ちょとつ)猛進〉の言葉から無鉄砲なイメージのあるイノシシだが、実は記憶力がよく、しつければ曲芸もこなす器用さも持ち合わせているそうだ。
「子どもが一度でも箱わなに捕まると、かなり警戒するようになります」と県森林動物研究センター(同県丹波市)の担当者が話す。
イノシシは春ごろに4頭ほどを出産した後、オスは家族を離れてメスが子どもの面倒を見る。箱わなには好奇心旺盛な子どもが掛かりやすく、閉じ込められた姿を見ると親はわな自体が危険と認識してしまう。
このため、人里での出没が多い場合は、足をワイヤで絡め取る「くくりわな」を併用するが、猟犬が掛かってしまう恐れもあり、使用には慎重さが求められるという。
「イノシシの知能は犬と同じくらいあるとする有識者もいます」と担当者。突進しかしないというのは人の偏見で、実は急発進、急停止どころか急転回だってこなすというのだ。
犬と同じようにお手や握手はもちろん、タイヤに乗って歩いたり、サッカーボールを蹴ってドリブルしたりするイノシシもいる。
京都市の護王(ごおう)神社は祭神・和気清麻呂(わけのきよまろ)を助けた動物としてイノシシをあがめ、毎年正月には境内で数頭が芸を披露し、参拝客を沸かせている。
調教しているのは、静岡県伊豆市の「斉藤ファーム」。15年前から移動動物園を手掛け、飼育している6頭のうち2頭は最大7種類の芸ができる。餌をあげたり、なでたりして教えると喜んで覚えるという。
代表の斉藤恒蔵さん(73)は、イノシシには応用力があると確信している。田畑を荒らす被害には「対策用のネットやトタンの壊し方をどこかで覚えたからだ」と指摘して付け加えた。
「動物が悪いわけではない。人間がしっかりとすみ分けをしてあげる必要がある」(門田晋一)
