客を乗せたバスが自動運転で、兵庫県三田市のニュータウン「ウッディタウン」を走り始めた。約1カ月の間、この街でどんな実験が繰り広げられるのか。夢のような技術は手の届くところにあるのか。最新技術を関係者に解きほぐしてもらった。5回にわたって紹介する。(高見雄樹)
自動運転バスの「目」になるのは、車体に取り付けられた計測装置「ライダー」やカメラだ。特に対向車や歩行者までの距離、形を認識する技術が最も重要になる。自動運転バスを走らせるシステムを作る先進モビリティ(東京)社長の青木啓二さん(72)に解説してもらった。
-ライダーとはどんな装置なのですか。
「レーザースキャナーとも言いますが、レーザー光で歩行者や障害物との距離を測り、対象物を認識します。他には自動車に多く使われているミリ波レーダーもあります。ただ、ミリ波は何メートルか先にものがあることは分かっても、形までは認識できません。カーブに壁があったら障害物と認識してブレーキが掛かります。見えたものが人か壁か電柱なのか、ある程度識別できないと自動運転は難しいですね」
-ライダーの数を増やせばいいのでしょうか。
「数が増えると人の形が見えるようになります。これまでの実験は1個のライダーで得た情報と、機械が自分で最適な答えを探し出す『ディープラーニング(深層学習)』技術を組み合わせていましたが、認識率が悪かった。今回からライダーを増やします」
世界中で自動運転技術の開発が進む中、認識率を上げる競争は激化している。目の前の情報が曖昧では車の動きを制御できないが、一筋縄にはいかない。
-認識率を上げるための課題は何ですか。
「機器(ハードウエア)の性能です。われわれが手掛けるソフトウエアだけでは解決できません。ライダーのメーカーは国内にほとんどなく、中国かアメリカに依存しています。以前は1個何百万円もしましたが、最近ようやく価格が下がり、性能がアップしてきました。いよいよソフトウエアが重要になってきます」
-交通状況を認識する際、バス特有の難しさはありますか。
「急ブレーキです。乗用車なら急ブレーキが踏めるので、近い距離のものを認識できれば良いのです。バスでは立っている人が吹っ飛んでしまうので絶対に踏めません。ということは、前方の障害物をかなり遠くから正確に認識する必要があります。これが今のライダーでは難しいのです」
-どれぐらいの能力が必要になりますか。
「時速40~50キロで走れば、最低でも75メートル先を検知する能力が求められます。乗用車なら約20メートル先でいいのです。しかも障害物の有無ではなく、何があるのかを正確に測れないといけない。この距離の長さというハードルは高いですよ」
-そこを乗り越えるため、開発体制を強化しているのですね。
「ベンチャー企業ですから人材集めには苦労しています。人工知能(AI)関係の技術者は引く手あまたですしね。でもここを乗り越えないと、永遠に運転の自動化なんてできないと思っています」
