新型コロナウイルス感染者が急増する中、兵庫県宝塚市と同県三田市で患者の居住地の公表方法に大きな差が出ている。県は本人の同意がなければ「宝塚健康福祉事務所管内」と非公表にするが、宝塚市は中川智子市長が県幹部に確認し、独自に市内の患者数を公表している。感染状況を正確に把握し、市民に対策を呼び掛けるためだ。一方の三田市は誹謗(ひぼう)中傷を防止するため、同意のない公表には否定的な姿勢を示しており、隣り合わせの両市で考え方の違いが浮き彫りになっている。(高見雄樹)
両市は独自の保健所を持たず、コロナ患者の情報は県に頼る。宝塚市は県の発表資料で患者の居住地が「宝塚健康福祉事務所管内(宝塚・三田市)」となっている場合、宝塚市民が含まれていると「自治体名は非公表でしたが、宝塚市民です」と公表する。中川市長が県の早金孝防災監に毎回電話で確認し、市長の責任で情報発信している。
これは今年3月に三田市内で初の患者が確認された際、伊丹市長が「居住地は三田市」と明かすと、三田市が否定して情報が迷走した問題がきっかけ。阪神地域の首長たちが井戸敏三知事に情報開示の改善を申し入れ、「必要なら(居住地を)言う」と知事が応じたことから始まったという。
■実態は4倍
県の発表では、11月の三田市内の新規患者(19日現在)は3人、非公表は35人だった=表。非公表のうち宝塚市が23人を宝塚市民と公表したため、三田市内の「実質」は12人。市が発表している患者数の4倍になる。
ただ、公表された患者数と実態とのズレは、毎月末に縮小する。県は「非公表」としていた患者の居住地を、一定期間経過後にまとめて公表しており、月末に三田市内の患者数が一気に増えるのはこのためだ。
市民への啓発方法も両市では異なる。宝塚市は市のウェブサイトで、直近7日間や人口10万人当たりの新規感染者数を掲載。「前週との対比は過去最高の7・00倍。この値が高いほど感染が拡大傾向にあることを示す」などと、具体的な数字を示して警戒を呼び掛けている。
一方、三田市のサイトは「兵庫県が公表する以外の市独自の情報はありません」と掲載。最新情報は県のサイトを見るよう促すのみだ。
■正確な数字
市が独自に保健所を設置している尼崎市や西宮市などは、患者数を把握した上でコロナ対策の施策を打つことができる。
宝塚市の山中毅危機管理監は「せめて市内の人数だけでも把握したかった。保健所を持たない市ができる精いっぱいのところ」と打ち明ける。その上で「説得力のある数字があるので、市民に警戒を呼び掛ける際の根拠になる。正確な数字は必要だ」と話す。
一方、三田市の龍見秀之危機管理監は「非公表にしてほしいという市民の要請は尊重すべき」とする。自治体レベルの患者数公表にも疑問を呈し「人は移動するので、患者数の推移は県全体か各ブロック単位で把握した方がいい。感染ルートが解明しやすい環境をつくるためにも、誹謗中傷や風評被害を防ぐことが大切だ」としている。
