若者たち~制約の中で・第1部(2)晴人【下】 三田でやれることから

2022/01/03 05:30

NPO法人が開催する講座へ参加した=三田市内

 長期休暇が終わり、実家から三田に戻ってくる時が「一番しんどい」。待っている人も、何かをする予定もない。「毎回、二度と戻ってこやんぞと思ってる」。兵庫県の関西学院大神戸三田キャンパスに通う2年の尾田晴人(仮名)は消え入るように話した。ここには居場所がない。学期中は月1回ほど和歌山の実家に帰り、何とかやり過ごしてきた。 関連ニュース 若者たち~制約の中で・第1部(1)晴人【上】 友達をつくるのは諦めた

 高校時代は学校が好きで、「何にでも積極的だった」という。3年の文化祭は、軽音部の友人に誘われてロックバンドに参加。小中学校の時に習っていたドラムを担当した。
 夏休み中は、受験生と思えないほど練習に打ち込んだ。休み明けからはメンバーが集まって音合わせの日々。「楽しい時間だけを過ごした」。文化祭のステージには友人もたくさん来てくれ、悔いのない思い出をつくれた。何かに挑戦できる環境が、当時は当たり前のようにあった。
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 今でも、高校を卒業した感覚が薄い。新型コロナウイルスの感染拡大で卒業式は中止になり、高校最後の日は午前中であっけなく終わった。「心の整理がつくまで帰りたくなかったから、最後の最後まで教室に残ってた」。近くの公園で友人とキャッチボールをし、疲れたら学校に戻った。職員室に恩師に会いに行き、ようやく帰るころには真っ暗になっていた。
 区切りがつかず、未練が残ったまま。実家の自転車に乗ると、思わず高校に向かいそうになる。
 大学も同じだった。入学してすぐ緊急事態宣言が発令され、和歌山に戻った。大学に行けず、実家でオンライン授業を受けた。「大学生」という自覚が持てなかった。
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 昨年12月。NPO法人「場とつながりの研究センター」(三田町)が開いた講座に晴人の姿があった。子どもの居場所づくりを目指す大人たちに交じり、肩をすぼめ、遠慮がちにメモを取っていた。大学の授業を通じて法人の事務局長と縁ができ、誘われて参加した。
 「こっち(三田)に重きを置かないと。嫌やと思って避け続けているのが、自分にとってはつらい」と晴人。昨年の今ごろは、友達をつくるのをあきらめていた。だが、嘆いていても、大学に行くことに変わりはない。3年になれば授業が忙しくなり、実家に帰る時間も減る。ならば三田に「拠点」をつくるため、やれることをやろうと思った。児童館が企画したしめ縄づくりには、ボランティアとして参加してみた。
 2年生になり、グループで取り組む授業が増え、学校で話す同級生もできた。1年生のころは、話し相手がいないことが悩みだった。しかし環境さえあれば、自然と人と話す機会が増えた。「ようやく大学生らしいことができてきた」
 これからの2年間をどうしたいかは、正直ぼんやりしている。それでも、少しずつ。今の自分にできることから、一歩を踏み出そうとしている。(土井秀人)
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(1)晴人【上】 友達をつくるのは諦めた

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