会う×聞く 三田市野外活動センター所長・森本崇資さん(45) 満たさないキャンプで生きる力
2022/04/22 05:30
森本崇資さん。企業や団体など大人向けのキャンプ研修も行っている=三田市野外活動センター
まきがはぜ、炎が揺らめく。煙の匂いが心地いい。たき火を囲むのは、兵庫県三田市野外活動センター所長の森本崇資さん(45)=同県川西市。未整備の斜面を滑るバックカントリースキーや、カヌーで巡るキャンプなどで国内外を旅してきた。炎を見つめながらしみじみ語る。「たき火って、やっぱりいいねえ」(聞き手・土井秀人)
関連ニュース
「忍たま乱太郎」放送開始30年 聖地・尼崎で全国の「忍クラさん」おもてなしイベント続々企画
赤、ピンク…300種 華やか大輪10万本 全国有数の球根産地「宝塚ダリア園」がオープン
将棋・王位戦第3局 藤井王位勝ち2勝1敗 豊島九段の勝負手及ばず
ー所属するNPO法人が2年前に指定管理を請け負い、所長となった。自身はカナダのキャンプ場で働いた経験もある。
体育大の大学院時代に、アウトドアと環境問題の関わりについて学んだ。1年の時に他の国をちゃんと見たいと思ってカナダを放浪し、教授の紹介でキャンプ場の「キャンプ・タウィンゴ」を訪ねた。ちょうど子どもたちを受け入れている時期で、みんな歓待してくれて。何だかよく分からないけど、将来ここで仕事するなって思った。
その後、キャンプについての論文を読んだ時に「長期キャンプの人格形成への寄与」など素晴らしさだけ書かれていたけど、違和感があった。キャンプを楽しむ子どもがいれば、そうでない子どももいる。そう思っても、当時の自分にはキャンプというバックグラウンドがなかった。自分の言葉に説得力がないのが嫌で、大本を知りに行こうとカナダに渡った。
ーカナダではキャンプが文化として根付いていた。
6月末~8月末を三つの期間に分けて子どもたちを受け入れ、15~22日間泊まる。1回で小学生から高校生までの約500人が来て、受け入れるスタッフも100人ぐらいいる。
宿泊するキャビン(小屋)にはシャワーやトイレが付いていて、年代ごとにエリアが分かれている。朝ご飯を食べた後は、水場でもスポーツフィールドでも好きな所に行っていい。キャンプの技術でも、クラフト(工作)でも、自由に選べる。
親は子どもを預けたら旅行などに出掛け、夫婦の関係を確認し合う。カナダではキャンプ自体が特別なことではない。
ーオーナーのジャック・ピアス氏(故人)は、国際キャンプ連盟の代表も務めた。
すごく居心地のいい人で、彼の価値観をたくさん学んだ。一緒の空気を吸うだけで気持ちよかった。
ちゃんとできていないといけないことには厳しいけど、本当に大変な時にこそすごく普通でいてくれて、何も言わずにやってくれる。大変な時に「何でそんなことになっとんねん」と言っても仕方ないでしょ。みんなに愛されて、自然の一部、妖精のような人だった。
キャンプは子どもたちが何かを学ぶとか、大それたことではない。ただ過ごして、安全に帰ってもらう。その中でそれぞれが体験し、感じてもらえばいい。
でも日本ではキャンプまでが学校の延長線。「ご飯は何時」「キャンプファイアは何時」と予定が決められている。そういう育て方では、何かあった時に対応できないと思う。
ー2年間働いて帰国し、自然体験や環境教育などを行うNPO法人ナック(大阪市)の職員に。子どもたちとカヌーキャンプやスキー教室を行ってきた。10年ほど前からは、「満たさんキャンプ」を開いている。
満たさんキャンプはトイレも水道もない農園で行う。農園までの約20キロの道のりを2リットルの水と自分の荷物を背負って歩く。夕方6時ごろには着くけど、夕飯ができるのは最短で午後9時半だった。一番遅い時は午後11時半から「いただきます」。平均で10時半くらいかな。
というのも、全部子どもたちに任せているから。ご飯を作っている横でサッカーをしている子がいても僕は何も言わない。
とにかく「引き算」が大事。大人が手伝ったり動いたりすると、子どもたちが活躍できる場所が減る。褒める瞬間も、子どもたちが我慢する瞬間も減る。
農園には何もないから、誰かが何かを始めないといけない。始めても、自分ではどうしようもなくなったら、誰かに助けを求めないといけない。もしくは一緒にやろうと声を掛けないといけない。それが、言葉を使うということ。
-保護者との信頼関係があってこそ成立する。
満たさんキャンプの前に、親子で日帰りキャンプと泊まりのキャンプに参加してもらう。それでも本気で預けたいと思った人だけ預けてください、と。
満たさんキャンプの狙いには「子どもの心を折ること」もある。高校生や大学生、社会人になって初めて心が折れたらむちゃくちゃしんどいでしょ。
でも結論を言うと、心が折れる子はいない。結局、子ども同士でちゃんとする。さっきまでけんかしていても、しんどそうな子がいたら「大丈夫?」「荷物持ったろか」って気を使い合っている。それが子どもの力。
ー「火を扱える人」になってほしいという。
人間が動物と違うのは、言葉、道具、そして火を使えること。これが最大のアドバンテージ。子どもたちには「まきのような人になりなさい」と伝える。自分が燃えることで、周囲を暖かくできる。湯を沸かせる。夜には人の顔を照らす明かりになり、人の道も照らせる。
ここ(野外活動センター)は、みんなが笑顔になるのではなく、「にやにや」する場所にしたい。作り笑顔はできるけど、作りにやにやはできないでしょ。