西播

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宵宮でおなじみの「どじょう汁」を振る舞う宮内一美さん(左から3人目)=福崎町西治
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宵宮でおなじみの「どじょう汁」を振る舞う宮内一美さん(左から3人目)=福崎町西治
野菜やきのこと一緒に煮込むみそ味の「どじょう汁」=福崎町西治
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野菜やきのこと一緒に煮込むみそ味の「どじょう汁」=福崎町西治

 待ちに待った秋祭りの日に、華やぐのは神社や練り場ばかりではない。親戚、友人が大勢集って囲む食卓もまた楽し。「松茸(まつたけ)や蟹(かに)など山海の珍味を盛ったごっつぉ(ごちそう)を用意する」(車谷長吉さん著「灘の男」)ところもあれば、しめサバやコノシロのすしもよく目にする。家庭や地域で受け継がれてきた特別な料理の数々。その中に、やや異色のメニューを見つけた。(井上太郎)

 10月中旬の朝、兵庫県福崎町内の営農倉庫。手際よくナスやゴボウ、里芋を切り終えた宮内一美(ひとみ)さん(70)が、“メイン”の食材が入ったビニール袋を手に流し台へ向かう。「ぐったりせんようにね」。そう言うと、ニョロニョロとうごめく黒っぽい魚たちをバケツとざるに交互に移した。

 福崎町西部の西治地区では、二之宮神社(同町山崎)の秋祭り宵宮の昼食にどじょう汁が振る舞われる。

 そんな習わしを聞き、取材をお願いすると、今年は屋台練りの中止で見送られた恒例の炊き出しを、地元の女性グループの5人が再現してくれた。

 熱した鍋に生きたドジョウを放り込み、はねて逃げないように素早くふた。酒、水、だし、野菜を加えて煮込み、みそを溶く。器に取り分けた後でそうめんを足せば完成だ。

 「濃いええ味や」とおかわりする男性(86)が、周りの田畑を見渡す。「昔は溝の砂ほじったらようおった」

 農村の西治は旧福崎町13カ村中、最下流域の「水尻(みずじり)」。戦前の社格でいう「村社」は地区内の八幡神社だが、本宮の日はそこから約3キロ北にある13カ村各地の「郷社」である二之宮神社まで屋台を練りに行く。宮元の山崎地区は、西治地区にとって用水の上流。誰もが水に感謝し、実りを喜び、敬意を表して遠路を訪ねてきた歴史があるという。

 そんな土地柄の影響からか、稲刈り前に水を抜く9月半ばごろからの清掃にも力が入った。ドジョウは残らず捕まえ、作業を終えると鍋を囲んで労をねぎらい合った。

 工業団地や住宅地の開発が進む昭和40年代からこうした慣習は薄れたが、公民館建て替え後の2007年ごろの秋祭りで復活する。

 宵宮の昼、公民館には地元を回る屋台巡行の合間に周辺地区の氏子も集まる。長老たちの知恵を借り、西治自慢の料理としてどじょう汁を振る舞ったところ、周辺地区でも「懐かしい」と喜ぶ人がちらほら。翌年から恒例の炊き出しメニューに定着した。

 田んぼで捕まえた昔は2週間ほどの泥抜きが手間だったが、今は「そこそこいい牛肉並み」(宮内さん)の100グラム400~500円で1キロほどを仕入れる。

 ぬめりのせいか、なじみの薄い60代以下の住民には食わず嫌いも少なくないらしいが、90歳の男性は頭からがぶり。「くせがないね」と、骨も残さず平らげる。「今も昔も、みんなで集まって食べる理由になるのがまたええね」。年に1度の料理が美味なのは、にぎわい込みだからかもしれない。

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