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福次郎さんの後を継いだ樽見博編集長(右)と折付桂子さんが、膨大な資料に囲まれながら誌面づくりを続ける=東京都千代田区神田小川町3
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福次郎さんの後を継いだ樽見博編集長(右)と折付桂子さんが、膨大な資料に囲まれながら誌面づくりを続ける=東京都千代田区神田小川町3
96歳で亡くなるまで、生涯現役で古書業界の今を伝え続けた八木福次郎さん=2010年夏ごろ、東京都千代田区(日本古書通信社提供)
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96歳で亡くなるまで、生涯現役で古書業界の今を伝え続けた八木福次郎さん=2010年夏ごろ、東京都千代田区(日本古書通信社提供)

 東京・神田神保町で古書を扱う八木書店(千代田区)。創業者の八木敏夫さん(兵庫県明石市出身、1908~99年)の弟、福次郎さんは「神保町の生き字引」と呼ばれた。経営手腕を発揮した兄とは違い、趣味の人。兄が起こした古書業界の動きを伝える月刊誌「日本古書通信」の編集を70年以上続けた「名物編集長」だった。

 日本古書通信の創刊は1934年1月1日。創刊部数は千部。古書市場の相場速報などを掲載した。36年、業界組合から相場公表を禁じられたため、一般の愛好家向けに衣替えした。太平洋戦争中に雑誌統合の流れを受けて「読書と文献」と改題。戦争末期に休刊に追い込まれたが戦後、元の名前で復刊した。福次郎さんは、通算1000号を迎える9カ月前、2012年2月に96歳で逝った。本を愛し、同誌の編集方針「読まねば損をする」を地で行く生涯だった。

 古書街に近い神田小川町のビルの一室に、福次郎さんの仕事場だった編集室がある。1979年に入社した現編集長の樽見博さん(62)と、編集補助や経理を担う折付(おりつき)桂子さん(56)が受け継いだ。迷った時は、福次郎さんならどうするかを考えるという。

 福次郎さんは、旧制加古川中(現加古川東高)を卒業後、兄の後を追うように上京した。古書店勤務後の36年、21歳の時に日本古書通信の編集に携わるようになった。

 学者や著名作家の寄稿から地方の古書店を訪ね歩くルポ、古書を傷めない収納方法まで、世の本好きに古書の魅力を伝えようと工夫を凝らした企画が誌面いっぱいに詰め込まれた。

 福次郎さん自らもコラムをたびたび執筆した。95年2月初旬には阪神・淡路大震災で被災した神戸に入り、地元古書業界の現状をリポートした。「読者のための雑誌という視点にはぶれがなかった」と樽見さん。

 折付さんは「温かい人だった」と振り返る。3人の小所帯だが、折付さんは産休・育休をもらった。故郷兵庫のことも年中話していたという。酒席では、旧制中学校時代に陸上競技で活躍した思い出話などを、関西弁で繰り返し話した。

 出版業界は今、デジタル化の波に押される。蔵書検索から売買までインターネットで事足りる。古書通信も、広告に当たる全国の古書店の目録掲載が減ったため、最盛期は90ページほどあった誌面が今は50ページほどになった。「なんとかして古書通信を残し続けるのが私の仕事。まず1100号が目標」と樽見さんは言う。

 10月発行の最新号で1059号。変わらぬモノクロのページをめくる。兵庫から古書の街で身を立てた八木兄弟が、街や本の行く末をどこかで見守っているような気がした。(大盛周平)

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