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存在=神戸市内
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存在=神戸市内

 自殺願望を抱く人に、私たちができることは…。「疲れた心を軽くする本」などの著書がある神戸市東灘区の精神科医、松井律子さんにメッセージを寄せていただきました。

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 日本中をパニックに陥れた座間の事件。その被害者たちは、ツイッターで「死にたい」と漏らしていた人たちでした。「死にたい」という言葉を発する人は、「死にたいくらい苦しい」と訴えたかった人たち。被害者たちは決して例外的な人たちではなかったはず。死にたいくらい苦しい状況に陥ったとき、あなたには悩みを受け止めてくれる人はいますか? 「いる」と即答できる人は、半分にも満たないのではないでしょうか。

 もしあなたの身近な人から「死にたい」と言われたら、まずは「死にたいくらいにつらいことがあれば、話してみて」と伝え、思いを聞いてあげることです。

 打ち明けた人は、解決してもらいたいのではなく、苦しさをわかってほしいのです。黙って苦しみを受け止めてくれる。ひっそりそばにいてただ聞いてくれることを一番求めています。

 人は大きな苦しみを抱えた時、それを一挙に解決してもらおうなどとは望みません。苦しさを黙って受け止め、そばにいてくれる人が欲しいのです。一挙に誰かに解決してもらえるような問題であれば、そこまで苦しむこともないのだから。

 しかし、そんな求めに応じてくれる場所があるでしょうか。

 何の資格も要求されず、何かを達成することも求められない空間。ただ自分の気持ちを話せば受け止めてもらえる、そういう居場所があれば、どれほどの救いになるでしょう。苦しさを訴えなくても誰か人がそこにいることを感じて過ごせるだけでもいい。

 80年くらい前にシュビングという女性は、看護師として重い精神疾患の女性患者に寄り添い、回復を助けました。後には看護師から精神科医になりました。彼女は言語的なやり取りができないほど混乱した女性たちにただ寄り添い、落ち着かせ、やがては回復へと導いたのです。シュビングのようにはいかなくとも、解決策を与えようと思わずに聞いてあげることです。

 誰でも出入りできる居場所が必要です。「死にたい」とつぶやく人ではなくても、例えば登校拒否の生徒だって親の期待に息苦しくなった時にしばらく過ごせる場所が欲しい。リストラされそうな会社員だって不安を紛らわせる場所が欲しい。

 精神科医にできることは死にたいくらいの苦しみで病気になったとき、死なないで病気の治療をするように誘導し回復するように手助けするのがせいぜい。診療には時間的な制約もあります。

 「死にたい」と苦しみを漏らす人に寄り添い、日常生活の立て直しを助けることができるのは、家族や友人、毎日を一緒に過ごす同僚や近隣の人たち。あるいは緩い結びつきがあって、たまに出会ったらお喋りする普通の知り合いなのです。誰かが苦しさを聞いてくれる。そのことが自分を大切な一人の人だと確認させ、生きていく気力を取り戻させます。

 病気の人もそうではない人も居場所が必要です。しんどくなったらふらりと行くことができる。何カ月も行かないこともあるけど、いつでもまた行くことができる。そんな居場所が欲しいと思いませんか。行けばお茶くらいはセルフで飲める。誰か居合わせた人と雑談できる。口を利きたくなければ何となくそこにいるだけ。週に2回くらいはミーティングがあって誰でも参加できる。一種の自助グループですね。

 もちろん匿名性の確保は必要です。ツイッターで「死にたい」と発信する人たちは匿名だからできたのです。面と向かってはとても言えない苦しさ。本当に死ぬほどの苦しさもあれば、経験の乏しい若者だからこその不安や生きにくさも混じってはいるでしょう。でも匿名だったら口火を切れる。苦しくても自分の声に耳を傾けてくれる人がいるなら、次のミーティングまで生き延びようと思える。この次まで、この次までと命をつなぐうちに、解決に至らなくとも生き延びるすべが見つかる。

 こんな居場所作りが今の無縁社会を生きやすい場所にする第一歩だと思うのです。

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