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PCBを封じ込めた5ヘクタールの盛り立て地。住宅地のすぐそばにある=高砂市高砂町
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PCBを封じ込めた5ヘクタールの盛り立て地。住宅地のすぐそばにある=高砂市高砂町

 その利便性から「夢の化学物質」と呼ばれたポリ塩化ビフェニール(PCB)が、「カネミ油症事件」を引き起こした。国内の製造量のうち、96%が鐘淵化学工業(現カネカ)高砂工業所で製造されていた。

 油症事件が全国を揺るがしたが、1970~80年代に兵庫県高砂市でもう一つのPCBを巡る問題が起きていた。

 カネカと三菱製紙の工場からPCBを含む廃液が瀬戸内海に流れ込み、高砂西港の底質土砂から高濃度のPCBが検出。漁業者らは姫路市から神戸市の海域で自主漁獲規制を余儀なくされ、カネカに猛抗議した。

 また、液状廃PCBの焼却処分を検討していたカネカに対し、不測の事故を懸念した市民が反発。反対運動もまた熱を帯びていた。運動に参加した高砂市の主婦(68)は「水俣病などの公害が社会問題になっていた時期。油症被害者のいない高砂では怖さの実態が見えにくかったけど、環境や健康への影響が心配だった」と振り返る。

 カネカは75年までに、自社で製造した液状廃PCB約5600トンを回収。焼却反対派の市民は、中止を求める署名を集め、自主的な土壌調査で市内のPCB濃度を測定。企業、行政、市民の亀裂は深まり、「PCB問題で住民が分断され、まちは深い傷を負った」と主婦は感じた。

 液状廃PCBは市民監視の下、88から89年にかけて高温熱分解処理された。その工程で生じた汚泥や装置の解体物など、PCB廃棄物は今もカネカ高砂工業所内に残る。

     ◇

 高砂西港の汚染土砂は掘り出して固められ、仮置き場として76年に盛り立て地が造成された。当時無害化はできず、環境に影響を与えないようアスファルトで表面を覆い封じ込めた。2008年から本格化した西港周辺の再整備で、盛り立て地の恒久的な維持が決定。地震対策が施され、西港を巡るPCB問題は「一定の区切り」とされた。

 この盛り立て地は、高砂市がPCB問題と歩んだ50年を象徴する。現在、住宅地との間は高い壁で隔てられ、生活空間と一線を画す。

 17年10月、カネミ油症の被害者団体が高砂市で集会を開き、同市高砂町沖浜町にあるPCB汚泥の盛り立て地を訪れた。

 油症被害者は灰色の小高い人工の丘を見上げ、「住宅地のこんな近くに…」と息をのんだ。丘の上にはカネカが設置したばかりの太陽光パネル1万3千枚が輝いていた。

 主婦は言う。「過去のことと思っている市民は多いけど、未処理のPCBは残り、被害者の癒やしは道半ば。関心を寄せ続けないといけない」(小尾絵生)

【ポリ塩化ビフェニール(PCB)】カネミ油症の原因となった化学物質。分解しにくく安定しており、電気機器の絶縁油や熱媒体、塗料の光沢剤など幅広い用途で使われた。その特性が長年、無害化処理を阻んだ。現在もPCBが全国各地に残っており、管理者は処分が義務づけられている。国内で使用が確認された5万4千トンのうち、半分程度しか無害化処理は進んでおらず、所在不明分も多い。製造は1972年に中止されている。

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