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ネズミを育てる受刑者。心をほぐす。少しずつ=加古川市八幡町宗佐
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ネズミを育てる受刑者。心をほぐす。少しずつ=加古川市八幡町宗佐

 兵庫県加古川市の官民協働刑務所「播磨社会復帰促進センター」の中は迷路のようだ。渡り廊下や階段、通路を通り抜けてようやく作業室にたどり着いた。動物の臭いが鼻をつく。

 受刑者中村健太(31)=仮名=が半透明のケースを無表情でのぞき込んでいた。

 「うわ、すごい汚れてる」。そばにいた作業療法士石井恵(35)=仮名=が大げさに声を上げた。中には白色のハツカネズミが5匹。底にはふん尿がこびりついていた。

 中村は、精神疾患や知的障害者を収容する「特化ユニット」で処遇を受ける一人。「人間なんて信じられない」。入所の時、中村は診察にあたった精神科医にそう語った。父から虐待を受け、信頼していた友人には逃げられた。人への不信感が強く、自己肯定感が極めて低い。精神面のケアが必要と判断された。

 恵は、受刑者の矯正にかかわる民間会社の社員。作業療法士の視点から「自ら考えて動く主体性を養ってほしい」と生き物の飼育を提案し、週1回、中村とネズミの世話をする。近くで刑務官が監視しているが、手錠など中村を拘束するものはない。

 「今日はどうしましょうか」と恵。中村は「洗います」と答え、ケースの汚れを水で落としていく。

 「手慣れてますね」

 「まあ」

 「手先が器用そうですね」

 「いえ」。恵の明るい声に、中村がぽつりぽつりと答える。

 中村が「あっ」と小さく声を上げた。ネズミの隠れ家としてケースに入れた陶器がぐしゃりと割れた。よく見ると、素焼きされる前の粘土の塊だった。「びっくりしたぁ」と恵がすっとんきょうな声を上げ、中村が笑みを浮かべた。

 「やっちゃいました。すみません」「謝らないで。中村さんは悪くない」。一瞬、心の壁が解ける。

 1時間ほどの作業を終えた。「きれいになったから、ネズミの動きが活発ね。喜んでる」。恵の褒め言葉に、中村は無言。作業帽を深くかぶり直し、作業室から出て行った。恵は言う。「多分、彼は人のこと好きだと思います」

 窃盗罪で服役する中村。彼の生い立ちが気になった。(敬称略)

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