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ネズミの飼育を通した心理療法。女性の作業療法士(左奥)が受刑者と向き合う=加古川市八幡町宗佐
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ネズミの飼育を通した心理療法。女性の作業療法士(左奥)が受刑者と向き合う=加古川市八幡町宗佐

 猛暑の夏。官民協働刑務所「播磨社会復帰促進センター」の中はひときわ蒸し暑く、狭い作業室では扇風機が回っていた。

 窃盗罪で服役中の中村健太(31)=仮名=は手洗い場でハツカネズミの飼育ケースを洗っていた。作業療法士の石井恵(35)=仮名=が寄り添う。

 近づいて来た恵がそっと話してくれた。「最近調子いいんですよ」。腰をかがめて、丁寧に水滴を拭き取る中村の姿が目に入った。

 父からの虐待や友人の裏切りで人間不信に陥った中村。収監時に精神的なケアが必要と判断され、矯正に携わる民間職員の恵が担当になった。飼育を通じ、中村の主体性や自己肯定感をはぐくむプログラムを作り、2人でネズミの世話をしている。

 「ネズミ、大丈夫かなって、僕、心配です」

 「中村さん、心配してあげて優しいなぁ」と恵が柔らかい口調で褒めた。週1回の療法は20回を超え、無口だった中村も会話をするようになってきた。

 「次はどうしますか」と恵。

 中村は金網状の通気口を触りながら、「干し草をひいていきます。でも、これだけ暑いとなぁ」。

 ちょうどその時、刑務官の藤井佐千夫(57)が作業室に入ってきた。普段、ネズミの餌やりなどを担当する刑務官の一人だ。

 「うおっ。きれいになってるやん。ネズミも『中村さん、ありがと~』って感謝してるわ」。藤井の豪快な笑い声が響いた。

 中村が、以前より少し明るくなった声で尋ねた。「オヤジさん、通気口ってもっと大きくできますか」。刑務官は、受刑者に「オヤジ」と呼ばれる。

 「うーん。どうして」と首をかしげるオヤジに、中村は「暑そうやから、大きくするか、増やして、もっと風通しをよくしてあげたい」

 「分かった。ちょっとやってみるわ。中村、優しいところあるやん」

 中村は照れ笑いを浮かべて頭をかいた。

 プログラムのもう一つの狙いは、ネズミの飼育を通じて受刑者が他者とコミュニケーションを取ること。中村とオヤジのやりとりを見つめていた恵は、満面の笑みを浮かべた。(敬称略)

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