ニホンザルの繁殖期を迎え、今年も兵庫県内各地で目撃情報が相次いでいる。神戸・阪神間の繁華街や住宅街でも出没しており、神戸市では10月以降、41件の通報があった。サルたちはどこに生息しているのか。兵庫県の10年以上に及ぶ調査の結果、その全体像が把握され、計約950匹とされる県内のサルたちの“勢力図”も判明しつつある。(前川茂之)
県は2004年から県内のニホンザルの生息調査に着手。捕獲したサルに発信器を付けるなどして群れの数や構成、活動範囲などを調べてきた。
県森林動物研究センター(丹波市)によると、これまでに生息が確認されているのは丹波、但馬、淡路、西播の6エリア9市町。洲本市や佐用町のモンキーパークで餌付けされているグループも含めると、13~14群おり、推定で945匹がいるという。
生息場所が離れ、互いに交流する機会は少ないが、ほとんどの群れが断続的に人里に出没し、農作物や民家などを荒らしている。16年度の県内の農業被害額は576万円に及んだ。
餌付けされていない野生サルの最大勢力は、朝来市と神河町にかけて生息する「大河内・生野」の群れだ。3群から成り、推定数は224匹。12年度ごろに朝来市南部で勢力を拡大したものの、集落側の追い払い対策が実り、近年は被害も沈静化しつつある。
一方、“悪行”が止まらないのは第2勢力の篠山エリア。農業被害の金額は2年連続で県内ワーストを記録した。新たな5群目も確認され、活動範囲は京都府にまで及ぶ。人慣れをしているため、追い払ってもすぐに集落に戻ってきてしまうのが特徴という。
香美町(美方)では昨年、群れが分裂し、子ザルを含む15匹程度が鳥取県へと集団移住したことが判明。理由は不明だが、12匹の小勢力が残り、絶滅も危惧される。
最も気性が穏やかとされる淡路島のサル。餌を仲間で分け合う場面もみられるといい、センターの森光由樹(よしき)主任研究員は「餌付けで十分に食べ物があることも影響しているのでは」と推測する。
ニホンザルの群れは通常、オスの「ボスザル」ではなく、有力なメスを中心に行動し、オスは4、5歳になると生まれた群れから離れ、伴侶を探す旅に出る。住宅街などに出没するサルはこうした旅の途中のハナレザルが多いという。
同センターでは、群れごとの分析の結果、佐用町のグループのみが岡山県を由来とする系統だったことを確認。それ以外の丹波や但馬のサルはいずれも京都系統だった。
森光研究員は「今は県内の群れが孤立化してしまっているが、かつてはもっと多くの群れが生息していたはず。絶滅を避けるためにも、人里に近寄らないようにしつつ共存を目指すことが重要だ」と話している。
