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徳田靖之さん
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徳田靖之さん

 国がハンセン病患者に対する政策の誤りを認めて謝罪したのは、2001年のことだ。一方、患者とともに家族も激しい差別にさらされてきたが、国は家族への責任は認めていない。兵庫県を含む各地の家族568人は国に謝罪や賠償を求め、熊本地裁に提訴。判決は5月31日に言い渡される。約3年にわたって審理に向き合ってきた弁護団共同代表の徳田靖之弁護士に、裁判の意義や患者家族の現状について聞いた。(中部 剛)

 -ハンセン病は感染性が低いにもかかわらず、国は地域社会を挙げて患者をあぶり出し、隔離する「無らい県運動」を進め、差別と偏見をつくり出した。患者の家族も差別され、苦しんできました。

 「今回の家族訴訟の意義は四つあります。一つ目は家族の被害について国の責任を明らかにすること。国は家族を隔離政策の対象にしていないと主張していますが、親と引き離された子どもたちは家族関係が崩れ、近隣から差別も受けました。二つ目は社会の責任です。実際に差別したのは学校や隣近所、親戚。国の政策が背景にあったとはいえ、社会が患者や家族を差別偏見の対象にした意味合いをはっきりさせなければなりません。そうでないと、今日に続く差別を克服できません」

 -社会もまた差別の加害者だったのですね。

 「そうです。三つ目の意義は、原告である家族が自らの人生を振り返り、墓場まで持っていこうと思っていた被差別体験を明らかにすることです。被害と向き合い、解放される場になってほしい。封印してきた苦難の半生を掘り起こすことは苦痛ですが、乗り越えてほしいと思います。四つ目は、離れ離れになった患者と家族のつながりの回復です。隔離政策で親子や夫婦、きょうだいの関係が引き裂かれ、ゆがめられた。子どもたちは差別の苦しみから、ハンセン病だった父や母を憎んでしまった。裁判の中で患者である父や母がどんな苦しい人生を歩み、家族のことをどう思っていたのかを知り、つながりを回復してほしい」

 -家族訴訟について、関西ではあまり知られていません。

 「2001年のハンセン病訴訟で国の責任が認められ、一応の決着がついた、というのが国民の共通の感覚ではないでしょうか。これは私たち弁護士も責任がないとは言えません。訴訟直後に家族被害について問題提起していれば、違った形になっていたかもしれません。私たちも家族の被害がここまで深刻で広範囲に広がっているということを、きちっと受け止めていなかったのだと思います」

 -原告で実名を公表しているのは副団長である黄光男さん(尼崎市)らごくわずかです。

 「差別が懸念され、実名公表は難しく、公表したのは団長、副団長を含め数人だけ。この差別をなくすことも裁判の意義です。ある原告男性は、母親がハンセン病患者だったことを妻に知られ、離婚されました。男性とその母親が、妻の実家に行って土下座して『戻ってきてほしい』と言ったそうですが、妻の実家から追い返されてしまった。仲むつまじい夫婦だったのに。素顔や名前を公表することで、自分の家庭や子どもの家庭が破壊されかねないのです」

 -被告の国は家族の被害を認めていません。

 「国は家族に被害が及んだという面があったにせよ、それは隔離政策によるものではなく、昔から社会に根付いていた偏見の目であるとしています。また、提訴時の3年前には、社会通念上、無視できないような差別偏見はなくなっていたと言います。ですが、元患者がホテルで宿泊拒否された事件や先ほどの離婚のようなケースが現実に起きている。差別がなくなったとはとても言えません」

 -今も社会にはハンセン病への差別意識があるのでしょうか。

 「意識を変えるには時間がかかります。国は間違いを犯したということを前面に出し、ハンセン病差別が許しがたいということ、人権侵害であるということを社会に徹底させなければなりません。差別は進行中です。多くの人に、家族訴訟に関心を持ってほしい」

【とくだ やすゆき】1944年生まれ。大分県別府市出身。67年、東大法学部を卒業。患者が原告になったハンセン病国家賠償訴訟でも中心的な弁護士だった。大分市に事務所を構える。

■記者のひとこと

 「もうすぐ後期高齢者です」と言って笑う表情が優しい。集会では分かりやすい言葉で市民に語り掛け、共感を得る。自身を評して「あきらめが悪い」。その粘り強い姿と人柄で困難な事案に挑み続ける。

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