総合 総合 sougou

  • 印刷
京都大学情報学研究科特定教授の川上浩司さん=京都大(撮影・後藤亮平)
拡大
京都大学情報学研究科特定教授の川上浩司さん=京都大(撮影・後藤亮平)

 2、3、5、そして7…。素数の位置にだけ目盛りが付いている「ものさし」を考案したかと思えば、近著のタイトルは59文字にも及ぶ。何だかイラッときそうだが、これらは「不便益」という考え方を世に広げるため、京都大学情報学研究科の特定教授、川上浩司さん(54)が練り上げた戦略なのだ。時は春。便利な生活に慣れきって馬齢を重ね、年々、不寛容の度を増すわが身を見つめ直す好機が到来した、のか。(新開真理)

 -先生が研究されている「不便益」。耳慣れない言葉ですが。

 「世の中には不便だからこそ良いことがあり、それを生かして物を作ったり生活したりしませんか、という発想です。20年ほど前、京大の僕の師匠が『これからは不便益やでぇ』と言い出したのが研究のきっかけ。最初はピンときませんでした」

 「(手間や制約があることで)主体性が持てる、自分事になる、など八つの『益』があります。効率的な最短距離なら生まれなかった出会いや発見も益の一つです」

 -不便益の考えを形にした一例が「素数ものさし」ですね。

 「ええ。素数以外の長さを測る時には計算が必要な上、京大でしか買えない。また『ほんものの京みやげ』という本は、駅ではなく街なかの本店まで足を運んだ人だけが買える商品を、という提案から生まれました。ただ、この本がネットで手に入ってしまうのが残念で…」

 「スマートフォンに登録した身ぶりと同じ動きをしないとロックが解除できないアプリ『不便ぇキー』も試作しました。仮面ライダーの変身ポーズなどを適当に登録、再現してみたんですが、反応しない。開発した学生は卓球部員で、いつもしている素振りによって解除できた。自分だけ、という特別感があります。僕はスマホも携帯も持ってないんですけど」

 -評価が割れそうな試作品も。

 「同じ所を3回通ると、その周辺が真っ白になって見えなくなる『かすれるナビ』のことですか。歩行実験の結果、これを使ったグループの方が周囲の景色をよく覚えていた。なくなる、劣化するというのは大事な不便で、補おうとすれば主体的になるのです」

 -周囲の反応は?

 「理解してくれる人は話し掛けてくれるけど、そうでない人はあえて反発することもなく、話し掛けてもこないので(笑)。でも、市民講座の1こまなどで講演すると質問の嵐なので、関心のある人は案外多いんじゃないかな」

 -余裕を求められる気が…。

 「確かに、『仕事では使えない』と連発された経験もあります。ただ日常は、最適なことに縛られる時間だけじゃないですよね」

 -便利な道具が障害者の暮らしを助ける例もあります。

 「発話障害のある人に、既存の物より操作が難しい発話装置を作ったことがあって。それを渡した時、お母さんが『この子、頑張れる子ですから』と言われ、そうか!と思った。習熟、克服できる余地を残すことの大切さはハンディがあっても同じかな、と。10年くらい前ですが、もっと研究を頑張らなくちゃ、と感じました」

 「不便益は、便利さの全否定や昔に戻れという考え方ではないのです。例えば今後、自動運転が浸透すると『運転しなくていい』ではなく『しちゃだめ』ということになるでしょう。けれど求められるのは、運転する楽しみを残した上で高性能の安全装置が裏で支える、という形ではないか。選択肢があることが大事です」

 -もっと知りたいという人に。

 「工学や心理学、教育、美術など多分野の研究者と、ウェブ上で『不便益システム研究所』を運営し、年に数回、研究会を開いています。先端が二股で、慣れると何でもつかめる箸とか、厚さが違う食パンの詰め合わせとか、発見に満ちたアイデアが出ています」

 「僕自身は、今は捨てている紙ごみなどが熱源になり、火事も起こさない屋内型の加熱装置を作りたい。分別という手間が、目に見えて自分の生活に戻ってくるような。それでお風呂を沸かせるようになれば最高ですよね」

【かわかみ・ひろし】1964年島根県出雲市生まれ。京都大大学院工学研究科修士課程修了。岡山大助手、京都大准教授などを経て現職。最新刊「不便益のススメ」(岩波書店)は豊富な事例を収録。

総合の最新
もっと見る

天気(4月24日)

  • 23℃
  • 17℃
  • 70%

  • 23℃
  • 16℃
  • 60%

  • 23℃
  • 17℃
  • 70%

  • 23℃
  • 17℃
  • 80%

お知らせ