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河鍋暁斎「日本武尊 下絵」(紙本墨画、河鍋暁斎記念美術館蔵)
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河鍋暁斎「日本武尊 下絵」(紙本墨画、河鍋暁斎記念美術館蔵)

 日本美術では本画、西洋美術ではタブローと呼ばれる完成作。美術の世界では、それらがデッサン(素描)や下絵よりも尊重される。当然といえば当然だが、とはいえ、素描やスケッチにも名品が少なからずある。レオナルド・ダビンチやミケランジェロの貴重な素描や画稿はいわずもがな。兵庫県立美術館(神戸市)で開催中の「河鍋暁斎展」(19日まで)に並ぶ幕末・明治の絵師暁斎の下絵類も、生気あふれる即興的な線はときに本画以上ともいえ、すこぶる面白い。

 日本美術ではたいてい、本画と同じ寸法で「大下絵」と呼ばれる下図を作成する。画家は大下絵のため、習作を重ね、構図・構成に工夫を凝らし、試行錯誤する。そうして出来上がった大下絵を写し取って本画を仕上げる。本画はいわば清書。緻密な線、丁寧な彩色の美はあるが、線の勢いや迫力が失われてしまうこともある。

 速筆で知られた奇才・暁斎の場合、本画にももちろん、独特の香気や味わいがあるが、生々しい筆致を伝える素描や画稿にこそ、絵師本来の才気や情熱、苦心の跡が見て取れる、と言えなくもない。

 剣を手に仁王立ちする「日本武尊 下絵」は流れるような墨線の躍動、重なりにうならされる。強烈な「気」を放っているような表現で、燃えさかる炎を背負った不動明王を思わせる。

 絶世の美女とうたわれた、平安時代の歌人小野小町の遺体が腐乱し、野犬やカラスに食われ、骨となる様子を描く巻物「卒塔婆小町図 下絵」の線の数々からは、死や生のはかなさを見つめる絵師の真剣さが伝わる。下絵ゆえだろう、画中に試し書きのように、リアルなウサギの写生図が紛れ込んでいたりもする。

 会場には、修正のため、上から紙を貼り付けたり、白く塗りつぶしたりして、描き直した下絵も数多く並ぶ。納得いく線やポーズを追求した絵師の執念、こだわりの痕跡だ。

 下絵に限らず、鳥や動物を題材にした写実的なスケッチも素晴らしい。ただし、いわゆる「眼前写生」ではない。暁斎は、目の前の対象の形態を単に紙に写し取るのでなく、その動きなどを心に刻んだ。その上で画室に戻り、記憶によって再現したという。そうやって、観察力と映像的な記憶力を鍛え磨いたのだろう。「生の本質」をつかみ取ること。それが暁斎の「写生」だった。だからこそ、それをベースに、機知やユーモアを交え、あらゆるものを自在に描くことができた。骸骨たちがふざけ、戯れているような非現実的な場面の下絵でさえ、不思議なリアリティーや臨場感があり、ついほおが緩む。(堀井正純)

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