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「妻の通院のために車は手放せない」と話す男性=豊岡市但東町
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「妻の通院のために車は手放せない」と話す男性=豊岡市但東町

 相次ぐ高齢ドライバーによる事故を受け、高齢者の運転免許証の自主返納ムードが高まる中、公共交通機関が少ない地方では戸惑いの声が上がっている。兵庫県や京都府の北部地域の高齢ドライバーへのアンケートでは7割以上が「生活のため」などで返納したくないと回答。実施したシンクタンクは「一律に自主返納を勧めるのではなく、公共交通機関が不十分な地域は多様な選択肢を」と提言している。(石川 翠)

 「高齢者はハンドルを握るな、と言われるとつらい」-。兵庫県北東部の山あい、豊岡市但東町で暮らす男性(86)が吐露する。

 市中心部の市街地まで約25キロの山道は車で約40分。持病を抱える妻(83)の通院に車は欠かせないが、同居する長男は仕事で日中は不在だ。スーパーまでも約5キロ。通勤通学用の市バス「イナカー」が平日は6便あるものの、土曜は1本、日曜は0本だ。免許を手放せば生活に支障をきたすことになる。

 これまで無事故だが「高齢ドライバーの事故のニュースを見ると悩む」という。「自分は大丈夫と思っているわけではない。返納してもいいと思うが、妻の送迎は誰もしてくれない」

 一方、1年前に返納したという同地区の男性(89)は、妻(88)とともにかかりつけ医に相談した際に「(更新に必要な)認知機能検査に通らないかもしれない」と告げられたことがきっかけだった。買い物は近所の70代女性がスーパーまで同乗させてくれるというが「手助けしてくれる人がいなかったら引きこもっていると思う」と話す。

 兵庫県警によると、但馬地域の免許保有者約11万3千人(4月末時点)のうち、65歳以上は約3万4千人で30%を占め、県内平均の22%を上回る。今年1~4月には239人が自主返納している。

 人口減少が続く兵庫県と京都府の北部地域の大学や民間企業などでつくるシンクタンク「北近畿地域連携会議」が2017年、自動車学校で講習を受けた70歳以上の500人にアンケートを実施したところ、74%が「返納したくない」と回答した。

 自由回答欄には「返納したら家の中に閉じこもる」=豊岡市・76歳男性▽「妹2人の病院送迎が必要」=京都府舞鶴市・75歳女性▽「不安と不便のどちらを優先させるか」=養父市・72歳男性▽「特定の車(軽トラ)には限定免許でもほしい」=朝来市・77歳男性-などと記されていた。

 調査の報告書では、地方での免許返納が「高齢者の生活圏の縮小や健康状態の悪化などになる」と警鐘を鳴らす。免許証の継続を支援する施策として、安全運転支援装置設置を条件にすることや、エリアを限定した免許制度、講習回数の増加などを挙げている。

 交通事故に詳しい帝塚山大(奈良市)の蓮花一己学長は「年齢で区切ることは高齢者を孤立させ、国の促進する『高齢者の社会参加』と逆方向に向かってしまう」と指摘。政府は自動ブレーキなどの安全機能が付いた自動車のみを運転できる高齢運転者向けの免許制度を検討しており、「安全運転サポート車では事故率が低下するデータも出ている。運転者が教習所で習得してから免許を付与するなど、運転継続を支援する具体的な選択肢を考える必要がある」と話している。

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