参院選を前に政府が打ち出した「就職氷河期世代」への集中支援。バブル経済崩壊で企業などが新卒採用を抑制し、高校や大学を出ても不安定な雇用で働かざるを得ない人が続出した世代だ。「ロストジェネレーション」(ロスジェネ)とも呼ばれる。各党とも公約では正規雇用への転換や同一労働同一賃金の実現などを掲げるが、不遇の時代を歩んだ当事者からは「本当に実行できるのか」といぶかる声も上がる。(西井由比子)
「結局、何も変わらないんだろうなと思ってしまう」。アルバイトの男性(43)は、ため息をつく。
神戸市須磨区出身。氷河期が続いていた2003年、東京の有名私大の大学院を卒業した。メディア業界を目指して就職活動をしたが内定は得られず、ミニコミ誌、コールセンター、地域おこし協力隊-と職を転々。今は兵庫県朝来市で単身、アルバイト収入に頼る生活を送る。
不景気の時代にいや応なく社会に放り込まれた。望むキャリアを積めず、不安定な労働環境から抜け出せないまま年齢を重ねた。政治で何かが変わった、と感じたことはない。「投票には行くけど、支持政党もなければ、投票したい人もいない」。各党公約を冷めた目で読み流す。
バブル経済崩壊後、多くの企業が不景気の急場しのぎで新規採用を抑えた。同調した政府は非正規の仕事の範囲を拡大し、人件費抑制を後押しした。
政府の経済財政諮問会議によると、就職が決まらないまま高校や大学を卒業した人数が最も多かったのは00年の約12万人。氷河期世代はこの前後、1993年~2004年ごろに新卒で就活をした世代を指す。年齢で言うと30代半ばから40代半ばで、約1700万人のうち、35%の600万人近くは非正規雇用か無職となっている。
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6月に決まった経済財政運営の指針「骨太方針」では今後3年間で30万人の正規雇用を増やす-とされたが、かつて就職に苦労した明石市の40代女性会社員はこぼす。
「当時の苦境が今も続いている。給料は、(労働力不足で厚遇されている)新卒にも負ける。私たち世代のつらさを、政府は分かっていない」
日本総合研究所(東京)の下田裕介主任研究員(39)は「歴代政権も何もしてこなかったわけではない。しかし、目立った成果は見られない」と指摘する。70歳まで働き続ける社会になると仮定すれば、この世代の現役期間はまだ20~30年あり、「就労参加や生活自立の支援は、労働力や社会保障といった社会基盤を安定させるためにも重要な課題だ」と説く。
