71歳の息子が99歳の認知症の母を介護する日々を追うドキュメンタリー「99歳母と暮らせば」(イメージ・テン配給)が公開される。聞いただけで、暗くてつらい「トホホ」な日々を想像しがちだが、大間違い。2人は次々とやってくる苦難の大波小波を掛け合い漫才のように乗り越えていく。思わず笑って、ほろりとして、胸に染み入る92分。(鈴木久仁子)
息子、谷光章さん(73)は映像作家で、これまで多くのドキュメンタリー映画に携わってきた。「認知症が進む母に、少しでも穏やかな余生を送ってもらいたい」と同居を決意。2年前の71歳のときから、1年にわたり撮影した。
カメラを回したのは「最後の日々を記録に残しておこうかなという気持ち」から。固定カメラで「何か母がいつもと違う感じになったら回してきた」ので、他人は一切入らず、2人だけの日常が収められている。
“非日常”は次々に起こる。記憶障害、昼夜逆転、物盗(と)られ妄想…、特筆すべきは幻視のシーンだ。「お客さん来てるよ」と誰もいない扉の向こうに向かって手招きする母。「どなた? 知ってる人?」と章さん。「ううん。知らん。おじいさんやわ」。2人で誰もいない廊下を見つめて「どうぞお入りください」。
普通ならつい、怒ったり、きつい物言いになりそうなところだが「怒ったってしょうがないじゃない。治らないんだから」と章さん。「こちらが常識と思っていることから外れると、許せなくなったり、怒ったりするでしょ。そんなばかなことって思っても、ちょっと向こうの世界に行っているのを一緒に行って見てくる感じ。おもしろいんですよ」
老いていく姿は「将来の自分の姿」と話す。「話せなくなってもアイコンタクトをしたり、肌に触れたりして、コミュニケーションは取れる。楽しかったことや得意なことは記憶に残っているので、その引き出しから少しでも生活に取り入れて、幸せな日々を重ねていきたい。そんなことを見た人が感じてくれたら」と穏やかに語る。
10日から、シアターセブン(大阪市淀川区)、京都シネマ(京都市下京区)。10月12日から、神戸アートビレッジセンター(神戸市兵庫区新開地5)で上映予定。
