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神戸市兵庫区、満福寺(撮影・中西幸大)
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神戸市兵庫区、満福寺(撮影・中西幸大)

 「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止された経緯を見ながら、現代アートの役割って何なのだろうと考えさせられた。神戸では今月14日、芸術祭「TRANS(トランス)-」が兵庫、長田区で開幕する。主要な出展者に現代美術作家、やなぎみわさん(52)がいる。「従来の価値観では推し量れない新しさ、それが芸術の生命線」とやなぎさん。詳しく話を聞いてみた。(片岡達美)

 -企画展「表現の不自由展・その後」の騒動では、不自由が広がっていると実感させられました。

 「言論や政治は何にでも白黒をつけたがるが、アートは豊穣(ほうじょう)な文化をつくるための手段だ。10月に神戸で上演する野外劇『日輪の翼』の原作者、中上健次は自分の生まれ育った紀州の土地を『路地』と表現した。路地は牛の霜降り肉の脂肪のように都市に入り込んでおり、松阪牛が日本であるというたとえ方もしている。その表現を借りれば、芸術は信条の右も左も内包した“霜降り状態”。その矛盾とどれだけ向き合い、葛藤するか。その点に尽きる」

 -個人の考えを発信するツールの会員制交流サイト(SNS)が、攻撃の道具になっています。

 「SNSはもろ刃の剣だが、今は誰もが世界とつながることができる。『あいちトリエンナーレ』の非公式プログラムでレクチャーした日本の若手作家は、韓国の美術家らと交流し、創作活動を続けている。その軽やかさ、しなやかさに勇気をもらった。そういう個人レベルの交わりを、国家権力が断ち切ることはできない」

 -演劇に取り組み始めたのは、2010年からですね。

 「まず大正期の新興芸術運動を題材にした『1924』3部作をはじめ、戦争絵画や戦時アナウンサーの声など、プロパガンダや芸術と政治の関係をテーマにした。その後、長年の夢だった野外劇用のトレーラー車を台湾で購入し、『日輪の翼』で全国を旅巡業した。神戸が6都市目になる」

 -野外劇の魅力は?

 「きれいな夕日や満月が力を貸してくれることもあるし、逆に台風で公演を中止したことも。劇場は守られた空間だが、野外は照明も音も漏れ、近所からクレームが来たりする。それでも作品を立ち上げて土地と交わることで、地面から何百年という歴史が生々しくわき上がるのを感じる」

 -神戸では、海に向き合う中央卸売市場を会場に、新しい演出を加えると聞きました。

 「時宗の開祖、一遍上人は遊行の途中、兵庫津で没した。それにちなんで僧侶や市民にも踊り念仏に参加してもらう。『日輪の翼』は熊野の老婆たちが全国の神社をめぐる旅物語だ。鎌倉時代、一遍上人は熊野の神から啓示を受け、遊行の旅を続けた。近代、熊野からは多くの移民が旅立ち、神戸港も移民を送り出した。境界を越えていった者たちの魂を野外巡礼劇に重ねてみた」

 -何より神戸は、やなぎさんが生まれ育ったまちです。

 「大学入学を機に移った京都での暮らしの方が長くなった。今の自分は神戸にふらりと舞い戻った、折口信夫のいうマレビトのようでもある。この地域を学び直しているようで新鮮だ。今回の芸術祭では神戸の住民の充実感、満足感とともに、ビジョンが世界に向かうことや現代美術のダイナミズムを失わないことが重要になる。芸術を通して世界に結びつくことで、地域は活性化する。会場の兵庫区、長田区に今後、若い作家が集う創作空間が生まれるなら、最先端のエリアになる」

 -今年は全国の5美術館で10年ぶりの個展が開催されています。

 「個展では旧東独の戯曲家ハイナー・ミュラーの作品を自動の機械で上演している。写真作品では神話や古事記などをテーマに、福島県の果樹園で夜の桃を暗箱カメラで撮影した。野外劇が『動』なら、こちらは『静』。野外劇がちゃんと完成するか分からないのと同様、暗箱カメラも写っているかどうか分からない。でも自然を前に、人間の所業はそれくらいでいいと思っている」

<記者のひとこと>踊り念仏の練習を見せてもらった。僧侶の読経と鐘の音に、即興で繰り出されるギターとベース、タップダンスのステップが重なり、不思議な高揚感を抱いた。どんなふうに仕上がるのか。本番が待ち遠しい。

【やなぎ・みわ】1967年神戸市生まれ。CGや特殊メークを施したモデルを使って写真作品を制作。2009年、ベネチア・ビエンナーレ日本館代表。今年6月開館のシアターE9京都副館長。

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