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神戸税関六甲アイランド出張所で働く神戸さん=神戸市東灘区向洋町西1
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神戸税関六甲アイランド出張所で働く神戸さん=神戸市東灘区向洋町西1

 神戸税関六甲アイランド出張所(神戸市東灘区)で、自分自身に関するすべての記憶を失った男性が働いている。22年前、神戸市内で保護。障害もあるため、警察や福祉施設、ケースワーカーなどさまざまな支援を得て、今年1月から仕事に就いた。今も記憶は戻らないが、「職場や趣味の仲間もいる。過去よりも未来」と笑顔を見せる。(まいどなニュース・弓場伸浩)

 50歳、神戸(かんべ)良明さん。最も古い記憶は、1997年11月末の夜。JR元町駅の高架下で「寝転んでいた」というものだ。近くにいた男性と話をしたところ、自分に関する記憶がごっそりと抜け落ちていた。

 男性から警察に行くよう助言され、JR神戸駅の鉄道警察隊に保護を求めた。指紋を採って調べてもデータベースの中に一致するものはない。病院に運ばれた後も記憶は戻らなかった。家族や知人も見つからず、退院後は神戸市内の救護施設に身を寄せた。

 まったく手掛かりがなかったため、主治医やケースワーカーがサポートし、家庭裁判所の許可を得て新たに戸籍を作る「就籍(しゅうせき)」手続きを行った。姓は「神戸」にして「かんべ」と読むようにし、保護日である11月27日を戸籍上の誕生日とした。「再び記憶をなくした時」に備えて、保護された場所と日付を戸籍に残すという意味があった。年齢は主治医が見た目で推定し、逆算して生年月日を決めた。

 保護当時から脳性まひの影響で左半身の動きが鈍かった。保護から3年後、市営住宅で1人暮らしを始めた。医師からは記憶喪失を「全生活史健忘症」と診断された。「耐えがたいストレスで、すべての記憶を思い出せない状態」という。

 靴工場で働いていた時期もあったが、肺炎を患って辞めた。その後も職を探したことはあったものの、学歴も職歴も分からない境遇では厳しい。「真っ白な履歴書を見て、驚かれるのがつらかった」

 昨年夏、障がい者就労移行支援事業所「サンヴィレッジ」(神戸市)を訪れた。カウンセリングを受け、パソコン事務などの職業訓練に励んだ。

 仕事を探していたところ、神戸税関から職員募集の情報が入った。面接に同行した同事業所の橋本聖治さんは「練習はたどたどしかったのに、本番ではしっかりとしていた」と振り返る。税関側にも「前向きな性格や社交性が伝わってきた」と評価されて採用が決まった。今年1月から税関職員として働いている。

 神戸さんは「(趣味で所属する)卓球チームの仲間もよくしてくれるし、神戸税関さんでお仕事もいただけた。自分から過去のことを積極的に知ろうとは思わない」と日々を過ごしている。

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